こちらは2022年6月15日(水)に行われた、第2回目となるソフィアメディ在宅療養総研セミナーのレポート記事です。
ソフィアメディ在宅療養総研では、すべてのCS調査結果をホームページに公開されている、在宅療養支援『楓の風』より野島さんと下手さん、そして患者中心の医療サービス提供の普及と振興に関する活動を行い、医療の質向上に寄与することを目的とした日本 Patient eXperience(以下、PX) 研究会より講内さんをお招きし、セミナーを開催しました。在宅医療におけるサービス評価をテーマに、訪問看護師や在宅医療に従事する方向けのイベントレポートを前後編でお送りします。
▼前編はこちら
野島 あけみ
下手 将裕
篠田 耕造
中川 征士
後編では、CS調査におけるそれぞれの取り組みについて楓の風の野島さんと下手さん、ソフィアメディ在宅療養総研の篠田さん、中川さんにお話しいただきました。
楓の風におけるCS調査の取り組み
下手さん:
楓の風では2019年にCS調査を実施しました。調査を実施した理由は、営業用のパンフレット作成に活用しようと、その年の営業促進会議で議題にあがったことがきっかけです。楓の風のどこに満足してもらっているのか、自分たちが気づかなかった意見はないかと。楓の風の未来へ繋げるための改善、PRに繋がるのではないかというのが大きな目的でした。そこでCS調査の方針として、できるだけ早く、安く、リアルな声をより多く収集するということに気を付けました。
4月の営業促進会議から約2週間で準備をして、5月10日にはアンケート用紙の配布を行い、5月31日までに投函依頼を出しております。 基本的に本部で全てできるような形で進めました。予算は一事業所あたり5万円以内とコストを抑えながら、一部は外部サービスを活用。より多面的に情報を収集するというところで、ご利用者様だけではなく、ケアマネジャーと医療機関も対象としました。配布数は全体で1935件。ご利用者様は当時サービス中の方々から、ケアマネジャーと医療機関は過去から現在までご利用者様を通して関わったところから無作為に約50%を抽出しております。
アンケート方法については、ハガキの裏に印刷して、回答者がご利用者様ご本人か家族かがわかるようにして、基本的には匿名でそのままポストに投函してもらう方法を採用しました。質問内容やデザインの色は収集しやすいように3色に分けています。
質問内容も現場のスタッフと回答者に負担がないよう、知りたい情報を漏れなく、シンプルに。営業戦略会議に参加している役員や医師の意見を参考にしました。デザインは会社に担当がいて、印刷はプリントパックでお願いしています。
送付方法については、ご利用者様の場合、通常業務の領収書や請求書明細書と一緒にお送りさせていただきました。ケアマネジャーや医療機関に対しては、一部の事業所は所長が自ら手渡しのところもありました。同封作業は代行業者にお願いをしています。発送までのコストは、以下のスライドにまとめてあります。
赤い四角で囲まれている部分は通常業務としてかかっているコストも込みで明記しています。合計すると約39万円。一人当たりに換算すると201円です。
集計期間は配布した5月10日から6月14日まで。 2人体制でエクセルでデータを入力し、マクロで集計しました。集計後の結果報告では、ご利用者様にはパンフレットを作成し、ケアマネジャーと医療機関にはQRコードつきのはがきを印刷してお送りしました。
CS調査から結果報告までにかかった金額は合計して約65〜66万円でした。一人当たりに換算すると347円です。
苦労したところは、送付リストの作成くらいでしょうか。足りない郵便番号を確認したり、住所情報の整理をしたことですね。また、CS調査を通して、自社にとっての目的・利益は何かを明確に考えること、そして結果に対して何でもいいので、アクションを起こすことが大事だと感じました。
ソフィアメディにおけるCS調査の取り組み
中川さん:
ソフィアメディでは2020年と2021年、また2022年度もCS調査を予定しています。特にコロナ禍ということもあり、ステーションそれぞれだけでなくお客様含めても大きなストレスがかかっているなかでの取り組みでした。そのため、ご負担をかけないように配慮しつつ、なぜCS調査をするのか、その位置づけや目的について、皆さんとしっかりコミュニケーションをとりながら丁寧に進めました。
ソフィアメディには『ぐるぐるモデル』という価値創造モデルがあり、”英知を尽くして「生きる」を看る。”という私たちのミッションを実現するためのサイクルのなかに、CSがあります。また、ソフィアメディで働く人が、”「生きる」を看る”がきちんと実践できているのだろうか、自分たちのサービスが改善されているんだろうかと、なかなか可視化できない課題もありました。私たちのサービスを振り返り、改善に向けて取り組んでいくことが、地域の信頼を得ることに繋がるのではないか。私たちの提供しているサービスに満足いただけるからこそ、ビジョンとして掲げている、”安心であたたかな在宅療養を日本中にゆきわたらせ、ひとりでも多くの方にこころから満たされた人生を”に繋がると考えます。その位置付けで、CS調査の取り組みをスタートしました。
まず、本部で教育を担っている者を中心として企画し、トライアルも含めて行いました。調査設計としては、基本分類としてのお客様のセグメント(年齢や性別、基礎疾患、ご利用理由など)や、お客様分類としての利用期間や保険区分などを設けて、それぞれの設問とクロス集計して、データを細分化して使えるようにしました。
また、質問項目としては、日本看護協会のクリニカルラダーを参考に設定した看護実践能力の項目と、私たちの行動指針である『5Spirits』実践度から一部抜粋した項目、『VALUED ACTIONS』実践度といった私たちの価値提供がどれくらい実感していただけているかの項目、最後に米国などでよく取られている満足度の指標でもある『ネットプロモータースコア(NPS)』の項目で調査を行いました。詳しい評価方法や結果の活用については、後ほど篠田の方からお話しいたします。
CS調査の評価、結果の活用方法について
野島さん:
楓の風のアンケート結果は、スライドのように百分率で表してまとめています。
ご利用者様の結果では、約57%〜70%が最上位の『満足』と答えていただき、これに『ほぼ満足』を加えると、約90%は満足していただけたことがわかります。居宅の結果では、ご利用者様の結果より、それぞれ5%ほど下がるような回答で、主治医の結果が一番低くなりましたが、約75%はほぼ満足という結果となっています。結果的にも、私たちが一番心がけていることについて、評価が高かったことを知ることができました。
また、私たちもソフィアメディさんと同じように、他の人に楓の風を紹介したいと思うかという質問を入れましたが、「医療というものは人に紹介するものではありません」というようなご利用者様からのシビアな意見もあり、自分たちでは気づけなかった部分を知ることもできました。特にフリーコメントでは、丁寧に書いてくださった方もいて、私たちにとって宝物を得たようなCS調査となりました。
そして、これらの回答を受け、アンケート結果の送付では、楓の風の今後の取り組みも添えました。1つ目に関係機関との連携と信頼醸成、2つ目に医療的知識・技術の向上、 3つ目に看護師の定着のための努力をあげました。具体的には、スーパーバイザー(SV)・エリア長の設置、看護師全員のELENEC-J修了、社内の専門看護師・認定看護師たちによる教育の充実、看護師定着のための採用とフォローアップ、看護師支援体制の強化というところを明確にしました。CS調査を通して何に投資したらいいか、それはご利用者様の求めること、 サービスとして求めることであると、はっきりしたと思っています。
また、結果の活用方法としては、いろんなコミュニケーションの場面で使えるように、 パンフレットやホームページへの掲載など、何種類か作っています。
イワシ1本しか釣ってないのに、頭から尻尾までくまなく活用していると、このスライドをまとめながら思いました。大きな組織でなくともできることはあるし、やって得られるものはたくさんあります。実際の声というのは、 どれだけ大きな説得力があるのかということを直に感じました。
篠田さん:
ソフィアメディでは、ある程度の匿名性はありながら、事業所までの紐づけができるようになっています。具体的にわかったほうが傾向と対策は立てやすいからです。そこはそれぞれの組織の目的次第で手段が変わってくるのかなと思っています。
また、CS調査結果はドナベディアンモデルを活用し、Structure(体制)、Process(過程)、Outcome(成果)という3つの側面から評価し、アニュアルレポート(2021年、2022年版)にまとめて公開しています。
例えば、こちらは4つの指標を2020年と2021年で比べている図です。昨年と回収率は変わりませんが、総数が約1.5倍以上に増えています。しかし、看護リハビリ実践度は横ばいです。事業拡大をしている中ですので、この数字をどう判断するか、現在は細かく分析していくところです。
また、ソフィアメディが提供する訪問看護の価値を『ソフィアメディエクスペリエンス(以下、SX)』と名づけていて、定性・定量的な見える化を進めています。
この指標は看護・リハビリ実践度と、5Spirits実践度で、お客様の体験価値を測定しております。ここで大事なのはCSとESからそれぞれ算出していることです。短絡的にCS向上のみ追求しても結果にはつながらず、CSとESともに取り組んでいくことが大事で、そこをしっかりモニターしています。
そして、組織として全体の標準化を図るために、看護実践・リハビリ実践の縦軸、5SPIRITS実践を横軸にして、それぞれの点数を4象限分類とすると、以下のような分布図になります。
各ステーションのコンディションはこの4象限の中で分類されます。それぞれが右上にいき、ここを標準化するために、2022年は教育研修グループまたは地域でサポートし合い、より深めていく取り組みを考えています。この可視化は非常に大事で、各エリア長や各管理者にも情報公開しています。 自身の今いる場所と、あるべき姿とのギャップがわかると、どうしていったらいいかというところの対策が見えやすくなっていくでしょう。
また、CS調査の内容については基本は変えず、3年間継続して評価しています。3年間のトレンドを見て、 今後は診療報酬改定や社会ニーズの変化に合わせて、求められてるものは何か、 課題をしっかりと見極め、CS調査の質も上げていかなければならないと思います。
中川さん:
CSのアウトカムだけ追いかけていけばいいのではなく、これから定量的にも定性的にも、しっかりと経年的に取り組んでいきたいと思っています。 そもそも在宅医療そのものが、情報の非対称性がすごく大きな領域ですので、訪問看護では何を求められて、何ができるのかというところについて、お客様や医療機関、医療従事者とお互いに理解、認識を揃えていきながらやっていくことがすごく重要かと思います。
また、在宅医療におけるサービス評価の部分については、例えば、厚生労働省の事業で活用されている『訪問看護ステーションにおける事業所自己評価のガイドライン(第2版))』などもありますので、ぜひ参考にしてみてください。こうしたものを活用しながら、自分たちのサービス評価として振り返る機会にしていくこと。いろんな目的や観点で取り組まれることも、訪問看護全体の質が高まっていくような取り組みに繋がっていくと嬉しいなと思っています。今回ご登壇いただいた方々、ご参加いただきました方々、本当にありがとうございました。
[文]白石弓夏
▼関連記事