訪問看護ステーションにおける若手看護師を支える教育体制:現状と課題、これからのあるべき姿

訪問看護ステーションにおける若手看護師を支える教育体制:現状と課題、これからのあるべき姿

新卒や新しいスタッフを迎える春の時期に向けて、ソフィアメディ在宅療養総研では、若手看護師を支える教育体制に関するセミナーを行いました。この記事は2023年3月23日に行われたセミナーのレポートの後編です。

セミナーでは、ケアプロ株式会社から代表取締役社長の川添高志さんをお招きし、ソフィアメディ株式会社クオリティマネジメント本部、ソフィアメディ在宅療養総研副所長の篠田さん、ソフィアメディ在宅療養総研所長の中川さんが登壇しました。この記事では若手看護師の育成における現状と課題、これからのあるべき姿、パネルディスカッションの内容についてまとめています。

▼前編はこちら

登壇者

川添 高志<br>ケアプロ株式会社 代表取締役<br>株式会社CHCPホームナーシング エグゼクティブ・フェロー
川添 高志
ケアプロ株式会社 代表取締役
株式会社CHCPホームナーシング エグゼクティブ・フェロー
2005年3月 慶應義塾大学看護医療学部卒業。大学3年と4年に米国MayoClinicで研修を受ける中で、Retail ClinicやIn-Store Healthcareの業態を知る。経営コンサルティング会社、東京大学病院を経て、2007年12月起業。
篠田 耕造<br>ソフィアメディ株式会社 CQO
篠田 耕造
ソフィアメディ株式会社 CQO
公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。JNAラダー・教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師など行う。2022年よりソフィアメディCQOに就任。
中川 征士<br>ソフィアメディ在宅療養総研 所長
中川 征士
ソフィアメディ在宅療養総研 所長
モデレーター

若手育成における現状と課題

中川さん:
後半では、若手看護師の育成における現状と課題として、川添さんからお話しいただきます。

川添さん:
これは業界全体の話になりますが、たとえば日本看護協会が2019年からはじめている「訪問看護総合支援センター試行事業」というものがあります。今では23箇所以上あり、経営の支援、人材の確保、訪問看護の質の向上を目的として無料で提供されています。みなさんの地域でも教育のシステム作りや人事制度作りなど、サポートしてくれるはずです。厚生労働省または都道府県でも、地域医療介護総合確保基金の予算がついていると思いますので、まずはこういった公的事業の情報をキャッチしにいくことも重要だと思っています。

また、若手訪問看護師の育成でも事業所の規模や地域によって違いがあります。たとえば小規模よりも大規模事業所の方が設備投資が行われやすかったり、小都市よりも大都市の方が若手が働きやすいと言われることがあります。小児専門や精神専門、がん末期専門にやっている事業所で若手の育成を集中的にやられているところは少ないのではないでしょうか。ジェネラリストの教育はあるものの、スペシャリストやマネジメントの教育に関してはあまり手をつけられていないのではないかと思いますね。

課題としては、教育ノウハウや教育体制などは職場のなかでもいろいろとありますが、もっと大きな視点で業界のことを考えると、病院と比べて訪問看護業界の若手育成の課題には様々なものがあります。

1つ目は都道府県が看護師を増やすために奨学金を出していますが、返済の条件は病院に勤めないといけないことです。最近では高知県で条件が変わり、病院だけでなく訪問看護ステーションも対象となり、今後は全国でも変わっていく可能性もあります。2つ目は病院やクリニックのなかで院内保育園を作るとすごくいろんな補助があります。ただ、そこには訪問看護は入っていません。3つ目が新卒や子育て世代の採用育成の補助がないこと、4つ目は病院や訪問看護の間で出向に対しての経費支援などがないことです。やはり病院から訪問看護に移ってくると夜勤がなくなることで給料がダウンしやすくなります。そこを補填してあげるようなことも非常に重要だと感じています。最後に5つ目は、ソフィアメディのようにこうした開かれた場をつくり、オープンソースをみんなで共有していくことが必要ですね。訪問看護はそれぞれ競合ではありますが、仲間でもあり、この業界の発展にも繋がっていくので、情報をみんなでシェアして協力し合っていくことが重要だと思います。

中川さん:
ありがとうございます。たしかにこれらのさまざまな課題においては、地域として政策として取り組まれていると大変心強いものがあります。私も地元の奈良県で訪問看護の運営をしていた際、新任で従事したら半年間補助があり、訪問で使う車や聴診器などの医療器材を買うのに活用させていただいたこともありました。小規模事業所ほど負担が大きいですから、こうした政策が広がっていくといいですね。

パネルディスカッション

中川さん:
ここからはパネルディスカッションとして、こちらで議題を用意させていただきました。

中川さん「パネルディスカッション テーマ1」セミナー資料より引用

神奈川県訪問看護推進協議会の報告では、クリニカルラダーを活用している病院は多いですが、訪問看護において実際に活用しているところは7.1%となっており、クリニカルラダーの整備がないところが多いようです。こういった状況で、教育体制の整備と教育のツールはどこから始めたらいいのだろうかという点について、おふたりはどうお考えでしょうか。

川添さん:
まず始められることとしては、病院向けのラダーを訪問看護だったらこうあるべきだとそれぞれ書き換えていく作業があると思います。あとは、みなさんの職場の中で知識や技術、姿勢において看護師のモデルとなりそうな人を見つけ、どういうところがいいのか、中堅で足踏みをしている人には、どんな課題があるのか、と今いる組織の人たちで位置づけて考えてみると、その人たちのラダーの現状や今後の成長課題が見えてくることもあります。順位づけは難しいですが、そのときに意識することは、訪問看護師としての組織人とはどうなのか、接遇や介護保険のことなど、病院とは違う特徴もあるので、そこも踏まえて職場の人たちと抽出していく作業が必要です。それらが出てきた後に必要な教育、優先順位の高い教育は何か、と着手していくステップを職場で進められるといいかなと思います。

篠田さん:
ラダーの活用率が7.1%という数字は現実的にはそうだろうなと思います。というのも、ラダーは最終形でいいかなと思うんです。やはり実践力を上げていく、そのサービスの品質を上げていくのは教育の最前線に必要なことで、厚生労働省の「新人看護職員研修ガイドライン」や日本看護協会の「継続教育の基準ver.2」にもあるように、生涯学習するために専門職として何をしなければいけないのか、ここにもう少しクローズアップして自ステーションでできることを技術中心に考えていくと、その教育の内容も変わってくるでしょう。自ステーションの対象のお客様に合わせて優先順位を捉えていくことからです。そのためには、まずは真似から始める。その上でラダーに取り組む。目の前の実践を確実に、教育を進めるところに焦点を絞っていくと、教える側と教えられる側とが双方苦しくならずに、楽しく進められるのではないかと思います。

中川さん:
技術経験チェック表(スキルチェック表)のほうは、比較的取り組みやすい部分もあるのか、4割程度の事業所が導入している報告もありますね。今あるものを使って、なるべく取り組みやすいところからやっていけるといいですね。

新任訪問看護師の独り立ちの基準

中川さん:
新しく訪問看護に従事される方々が、「かなりできる」と教育者が判断する能力には、「同僚に相談しながら1人で安全にケアを遂行するリスクマネジメントに関する実践能力」が最も多いという報告があります。それぞれ、独り立ちの場面に関して、こうした基準があるのか、または若手で訪問看護が初めての人にこういう視点で成長を支えているというものがあれば教えていただきたいです。

川添さん:
実際に何度か同行訪問して、一部の技術から全体的な技術をみて、その利用者さんの今後の緊急訪問のリスクなどがわかっていることがひとつ基準にあります。しかし、ある程度経験を積んでからでも訪問のなかで何かしら問題が起こり得るわけです。そのときに利用者さんとご家族との信頼関係、あとは連携先の見極めと関係性、同僚との信頼関係みたいなところが最終的にはジャッジのポイントになるように思います。

篠田さん:
病院のときは「ちょっと助けて」と言えば誰でもすぐ来てくれる環境ですが、訪問看護の場合には同じように助けてとは言えないですよね。近くに誰かいるわけではないので、基本的にはお客様に迷惑をかけないという点で技術評価をしていく必要があります。たとえば、ストーマの管理や持続注射、麻薬管理の方法のように総合的な技術ができるレベルじゃないと、訪問に行ったときにひとりで完結できない。状況設定に応じた技術評価、あとは本人の気持ちですね。ひとりで判断して対応しなければならないので、お客様やご家族の不安にちゃんと答えられるだろうか、同行訪問で目標に対してどうだったかと評価を繰り返すことで、確実な訪問、緊急対応にも応えていけるかと思います。

質疑応答

Q.新任訪問看護師との1on1は、どのくらいの頻度で行っていますか

川添さん:
同行訪問のあとは、必ずその都度1on1をしていますね。あとはチェックリストに関することは3か月に1回、大きな目標に関しては半年に1回、それ以外にもなにかあれば随時という形でやっています。

篠田さん:
川添さんと同じです。日々の実践のなかで振り返りが1on1になりますし、定期的に1か月や3か月、半年ごとのように目標設定の刻みのところで管理者やマネジャーとの1on1があります。こまかなところで評価していったほうが総合的に育成のスピードもあがりますので。

Q.「共育」やチームで育てていく、チーム支援体制をとるにあたってどのような工夫をしていますか

篠田さん:
同じ事業所内でも、看護師とリハ職では何をやっているのか見えていないこともあります。そのため、若手を育成する機会でも共通の物差しを一緒に使うことによって、「あぁ、こんなことをしていたのか」「こういう考え方があるのか」と相互理解が深まります。そして、お客様に対する姿勢やケア提供の内容も深まっていく相乗効果があると思います。そうしたところを目指して、チーム支援型という体制をとっています。

川添さん:
ケアプロでは、単独訪問ができるようになったり、新規の夜間待機ができるようになったときにウェルカムボードでお祝いをする、飲み会のようなこともしていますね。あとは若い人全般の傾向として、訪問看護ステーションを選ぶときに教育プログラムや体制がきちんとしていることも大事ですけど、実は雰囲気も重要だと感じているようです。そのことをみんなに理解してもらい、職場の雰囲気がいい、良くしたいという人たちをまず採用し、雰囲気がいい職場を当たり前としていくことだと思っています。

中川さん:
そのステーションの雰囲気をよくするための工夫は何かあるんでしょうか。

川添さん:
ケアプロでは「Talknote」を社内の情報共有に使っているので、そこで日報を書いて「いいね」したり、ちょっとした雑談やプライベートなことも投稿したりして、発言がしやすい心理的安全性の高い職場づくりが大切だなと感じています。特にリーダーや上長クラスの人が意図的に投げかけるような工夫はしています。

篠田さん:
弊社もバックオフィス機能のなかに人事やウェルビーイング推進グループというのがあり、そこで毎月「ありがとうコメント」を送り合う仕組みや「年間MVP」として称賛する仕組みを意図的に作っています。そうしたところで機会を作らないと、普段なかなか言えないことや表現できないことがあるので、そこはバックオフィスとして環境を作りながら全体で盛り上げていく。そうしたサポートをしています。

若手育成におけるこれからのあるべき姿

中川さん:
最後に少し視野を広げる形で、これまでご紹介してきた若手育成における現状や課題について、これからのあるべき姿、こうなるといいなという話をいただけますか。

川添さん:
地域全体でいうと、若手の教育にすごく強みがある組織があれば、そこに研修に行かせるのも1つだと思います。近くに大きな病院があれば4月の新人研修に混ぜてもらうとか、大学のシミュレーションセンターを使わせてもらうとか、地域でも教育のリソースが整っているところを、地域全体でうまく活用していくことが大切ですね。そうしたプログラムを地域ごとにつくられたらいいなと思っています。

篠田さん:
川添さんと同じく、都道府県レベルの看護協会や協議会でそれぞれの育成のサポートをする仕組みや支援体制もあると思うので、まずそのような場所に確認していく。あとは基幹病院では認定や専門看護師さんでも派遣に来てもらう仕組みがありますので、そうしたものを活用して、地域のリソースを大いに使っていくことも必要ですね。看護部長さん方が手を貸してくれることもありますから。地域で一緒に雇用して一緒に育てていくような、そうした働き方も今後必要なのかなと思います。

中川さん:
実際に訪問看護の現場では、誰が教育の担当をしているかというと、半数以上が管理者の方々が教育担当を兼ねているんですね。管理業務で大変ななかで教育ともなると非常に大変な部分があると。特に訪問看護に従事される看護師さんもキャリアがさまざまなところでもありますし、お客様のお宅によって違い、個別性を大事にしないといけないので、教育は大きな負担になるかと思います。

また、おふたりが話されていたように、地域や都道府県単位でも相談してみるのはいいですね。看護協会がまとめた出向のガイドラインなどもありますから、先行事例から学ぶ、事例を積み重ねることが大事だと思います。

こうした外部のリソースもちゃんと使いながらスタッフのみなさんが安心して従事されるように、積極的に教育として活用していくべきですね。川添さん、篠田さん、本日はありがとうございました。

▼参考サイト

[文]白石弓夏