はじめての訪問看護:訪問看護を始める前に準備しておくこと

2023年6月16日に行われたソフィアメディ在宅療養総研のセミナーでは、はじめての訪問看護と題して、ソフィアメディ訪問看護ステーション千種で訪問看護師として働かれている森さんと藤田さんにご登壇いただきました。入社時に抱えていた不安や、どのようにして乗り越えていったのかなどの実際と、そのために必要な準備についてお話しいただきましたので、その概要の一部を記事にまとめました。

セミナーのアーカイブ動画はLINEにご登録いただくとご視聴いただけます。
今回のテーマが気になる方はぜひご登録ください。

登壇者

森 あゆみ<br>看護師 / 緩和ケア認定看護師
森 あゆみ
看護師 / 緩和ケア認定看護師
病院で急性期〜終末期、がん看護に携わる。病院でお看取りの際に「最期は家に帰りたい」という患者様の声に多く触れ、在宅で充実したお看取りができる環境を広めたい、家で過ごせる人を増やしたい、という想いから在宅療養に携わることを決意し、緩和ケア認定看護師の資格を取得。往診クリニック、他ステーションの経験を得て2019年12月ステーション千種に入社。
藤田 望<br>看護師
藤田 望
看護師
がん専門の病院にて手術・化学療法・放射線療法を受ける患者様の看護を主に行う。患者様の言葉のみならず、表情や行動、症状などから想いを汲み取ることを大切にしている。今後は、お一人おひとりと長期的にかかわることのできる在宅という場で実践し、その人らしく生活できるように支援できる看護師を目指し、2021年4月ステーション千種に入社。
中川 征士<br>ソフィアメディ在宅療養総研 所長
中川 征士
ソフィアメディ在宅療養総研 所長
モデレーター

中川さん:
ソフィアメディ在宅療養総研では、訪問看護や在宅療養に関する情報収集や発信をしております。今回のセミナーではこれから訪問看護をはじめる方、今はじめたばかりの方に向けての情報発信を目的として、このような場を設けさせていただきました。実際に新人訪問看護師が抱える課題においては、これまでたくさんの研究が行われています。

中川さん「新人訪問看護師が抱える課題」セミナー資料より引用

ご利用者様とのパートナーシップに関するものや、1人で訪問し評価や判断をすることができるのかなど、はじめての訪問看護経験ではさまざまな不安があります。今回はそうした不安や困りごとを先輩方はどのように解消されていったのかについて、3年前から訪問看護をはじめられた藤田さんとその先輩看護師である森さんから話題提供を頂きながら、みなさまにお届けできたらと思います。

それではまず、藤田さんよろしくお願いいたします。

はじめての訪問看護に感じる不安と実際

藤田さん:
よろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介させていただきます。私は看護学校卒業後、がんセンターの頭頸部外科で3年働いていました。頭頸部外科というとマイナーな科ではありますが、舌がんや甲状腺がん、咽頭がんなどで手術や放射線治療、化学療法をされる方が多くいらっしゃいました。その後、2021年にソフィアメディ訪問看護ステーション千種に入職して、現在3年目となります。

訪問看護に転職したのは、在宅で生き生きと自分らしく過ごされている方が多い印象が昔からあったからです。病院で治療する患者様を支えることももちろん大事なのですが、生活全体を広くサポートしたい気持ちが私のなかには強くありました。そのなかで訪問看護の実習に行ったときに印象的だったのが、利用者様が「看護師さん」ではなく名前で呼んでいたことです。それがとても素敵だなと思っていました。しかし、新卒で訪問看護に行くのは知識や技術の面で自信がなかったため、興味のあったがん領域で病棟看護師としてスタートすることにしました。

がんセンターでは、気管切開や胃瘻を増設される方もいて、入院前と大きく生活が変わる方も多くいらっしゃいました。そこに対する看護ケアや生活指導、サービス調整などを行っていましたが、十分にやりきれていないと感じることもあり、やはりその後の生活を長期的に支援したいという想いから看護師4年目で訪問看護ステーションに転職しました。

訪問看護に転職を決めてから、不安だったことはいくつかあります。特に在宅のお看取りや1人で訪問すること、制度についての不安が強くありました。病院でもお看取りをさせていただいたことはありますが、それほど件数は多くなく、病院と在宅では大きく環境が違うだろうと感じていました。また、3年間頭頸部外科で働いていましたが、その他の疾患の方とは関わりがなかったので、自分1人で全科訪問することに不安がありました。制度に対しても訪問看護に関する知識は全くありませんでした。ただ、こうした不安がありながらも実際はほとんど準備ができずに、入職の日を迎えることになりました。

それらについて実際に働いてみてからどのように乗り越えていったかという点についてお話しします。

藤田さん「実際に働いてみて」セミナー資料より引用

1人での訪問では、自信が持てるまで先輩の看護師が同行してくれていました。先輩と相談しながら、自信を持てるようになってから1人での訪問がスタートしたため、そこまで心配しなくても大丈夫でした。また1人で訪問をはじめてからも、チャットや電話などでいつでも相談できる環境がありました。

オンコールも最初はすごく緊張しました。初回はいつ電話がかかってくるかわからないことによる不安から、家に帰ってからゆっくりお風呂に入ることができず、眠れないこともありましたが、すぐに慣れていきました。また、オンコールで呼ばれそうなお客様は事前に事務所内で情報共有しているため、緊急時の対応を事前に考えておくことで安心してオンコール対応することができました。

多職種連携については、後ほど事例でも詳しくお伝えしたいと思います。

全科の訪問については、これまで単科だけでの経験で不安が強かったのですが、どの疾患だから看護ケアが大変ということではなく、さまざまなお客様の訪問をしていくうちに、そこで一つひとつ学びを深めていけばいい。何を望んでいらっしゃるのかというニーズをしっかりと汲み取っていくことが大切だと感じました。

制度に関しては、医療保険や介護保険の仕組みが複雑ではありますが、ソフィアメディでは基本的なことは研修で学ぶことができます。また、わからないことがあった場合は、先輩看護師や医療事務の方に相談して一つひとつ解決することができました。結論、「なんとかなる!」ということでした。

▼ソフィアメディの教育体制に関する記事はこちら

森さん:
ソフィアメディ訪問看護ステーション千種で主任をしております、森です。先ほど挙がりました他職種連携の事例について私から少しお話しさせていただきます。

1つ目は、藤田さんが入社して1年ほど経った頃に受け持っていただいたお客様です。難しい疾患だったので、多職種連携の必要性が高かったのですが、頭頸部外科の経験を持つ藤田さんの強みを活かすため、期待を込めて担当としてチームを引っ張ってもらいました。基本的なケアに関しては全く問題なく行えましたが、その他サービスや多職種との調整などは訪問するなかで悩む場面も多かったと思います。しかし、チームが同じ方向を向いていたので1人で対応しているという感覚ではなく、気軽に周りに相談したりアドバイスをもらったりしながら進めることができたのではないかと思います。藤田さんが冒頭の挨拶で訪問看護師のことを「看護師さんではなく名前で呼んでいた」という話をされていましたが、まさにこの事例を通して信頼を得て、「藤田さん、藤田さん」と呼ばれるようになりました。

2つ目は、誤嚥リスクが高いお客様でしたが、ご家族のおいしいものをできるだけ食べさせてあげたいという想いが強く、私たちがどう関わって行くのかと日々葛藤して悩み、その都度相談しながらすすめたお客様です。私たちで悩み切れないところは医師やヘルパーさん、もちろんご家族にもお気持ちを聞いて、その日その時のベストを探りながらケアしていきました。藤田さんが「お看取りは悲しいものだけではなく、はじめて笑顔のエンゼルケアに立ち会うこともできた」と話してくれましたが、私も同じように病棟時代、エンゼルケアは悲しいものなんだと感じていた時期があります。本来エンゼルケアとは悲しい時間ではなくて、「お疲れ様」「ありがとう」という感謝の気持ちを伝えられる大事な最期の時間だということを、訪問看護に来て身に染みて感じています。そうした場面を、藤田さんにも実際に伝えていくことができてよかったなと思います。

そして、その後の亡くなった後のサポートまでできるのが訪問看護ならではだと思います。藤田さんもときには失敗をしてしまうこともあったと思いますが、それでもちゃんと振り返りをして次のケアに活かしていくことができていました。今ではステーションの主力メンバーとして欠かすことができないスタッフのひとりです。素直に受け入れていく姿勢も大事だなと、それが藤田さんの魅力かなと思っています。

藤田さん:
ありがとうございます。本当にみなさんに助けられて関わらせていただき、自分自身もすごく成長できた事例だと思います。

最後になりますが、訪問看護は1人で行うものではなく、チームで支援することが大事だなと日々感じています。看護師同士や多職種が毎日タイムリーに連携できているところが訪問看護の魅力だと思います。また、疾患があって治療するというのは、その人の生活の一部にすぎないということ、疾患だけでなくもっと広い視野でみることを意識できればと思います。そして、これが一番大事なことではありますが、お客様やご家族が主体ということを忘れずに介入させていただくこと、気持ちを尊重して意思決定を支援していくことが大事だなと思います。ご清聴いただきありがとうございました。

中川さん:
藤田さんの強みを活かして、新人訪問看護師でも十分にチームやお客様、ご家族にも貢献できるんだということが伝わりました。

それでは次に、森さんのほうからこれからはじめて訪問看護に従事する方に向けてアドバイスをお願いいたします。

訪問看護で働く前にしておくべき心構えと準備

森さん:
私は総合病院での勤務が8年ほどあり、消化器内科や呼吸器内科外科の複数科の経験があります。そのなかで訪問看護に興味があったのですが、当時はまだあまり従事している人がいなかった時代で、一度自分の目で確かめてみようとデイサービスや施設、訪問入浴などのアルバイトを経験した時期がありました。それからケアマネジャーの資格を取り、2017年に訪問看護師になりました。そこで緩和ケア認定看護師の資格を取得し、ソフィアメディに入社したのは2019年になります。

実際に訪問看護に従事する前に押さえておくポイントとして、以下のように考えています。

森さん「訪問看護に従事する前に押さえておくポイント」セミナー資料より引用

この続きは、LINEにご登録いただくことでアーカイブ動画をご視聴いただくことができます。
こちらよりご登録の上、メニュー画面からご視聴ください。

アーカイブ動画では、以下のような内容についてお2人の考えを話しています。

①訪問看護に従事する前に押さえておくポイント、訪問看護でつまずきやすいポイントの詳細
②パネルディスカッション、質疑応答
・医療における治療の場から生活の場へ視点を移していく、看護の軸を移す際に難しかったこと
・ご利用者様との関わりが強くなりすぎることにより、自分自身のメンタルがやられてしまうことはないか
・オンとオフの切り替えについて
・新人訪問看護師の独り立ちするまでの過程や判断について
・訪問看護を受けたいけど、生活の場を見られることに抵抗を持たれる方への介入・小さな子どもがいる看護師の仕事と子育て
・家庭との両立、オンコールについて

[文]白石弓夏