はじめての訪問看護:最期までその人らしくいききるための在宅緩和ケア

はじめての訪問看護:最期までその人らしくいききるための在宅緩和ケア

2023年7月14日に行われたソフィアメディ在宅療養総研のセミナーでは、はじめての訪問看護と題して、ソフィアメディ訪問看護ステーション千種で訪問看護師として働かれている石田さんと緩和ケア認定看護師の森さんにご登壇いただきました。病院から訪問看護に転職してはじめての在宅緩和ケアで、つまずきやすい場面や押さえておくべきポイントについてお話しいただき、その概要の一部を記事にまとめました。

▼前回開催の「はじめての訪問看護:訪問看護を始める前に準備しておくこと」はこちら

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登壇者

森 あゆみ<br>看護師 / 緩和ケア認定看護師
森 あゆみ
看護師 / 緩和ケア認定看護師
病院で急性期〜終末期、がん看護に携わる。病院でお看取りの際に「最期は家に帰りたい」という患者様の声に多く触れ、在宅で充実したお看取りができる環境を広めたい、家で過ごせる人を増やしたい、という想いから在宅療養に携わることを決意し、緩和ケア認定看護師の資格を取得。往診クリニック、他ステーションの経験を経て2019年12月ステーション千種に入社。また、名古屋市の多職種と連携しながら患者様やご家族様の悩みにお応えするため、NPO法人tomoniなごやでも活動を行っている。
石田 実穂<br>看護師
石田 実穂
看護師
大学病院にて内科の混合病棟に携わる。入退院を繰り返す患者様と接するなかで、入院中の治療だけでなく退院後の再発予防に向けた関わりの重要性を感じる。患者様の住み慣れた在宅での支援に興味を持ち、介護支援専門員の資格を取得。これまでの経験を活かしながら在宅ケアの学びを深めるため、2019年4月ステーション千種に入社。
中川 征士<br>ソフィアメディ在宅療養総研 所長
中川 征士
ソフィアメディ在宅療養総研 所長
モデレーター

中川さん:
先月に引き続き、はじめての訪問看護と題して「最後までその人らしく生きるための在宅緩和ケア」をテーマにお届けしたいと思います。

中川さん「訪問看護師が終末期がん療養者ケアで感じる困難」セミナー資料より引用

在宅緩和ケアにおいて、「在宅の主治医が決まらないまま緩和ケアがはじまってしまった」、「必要な介護力がなく困った」、「ご家族とご本人の療養場所の意向にずれがあった」など、よく遭遇する困りごとで悩んだ経験もあるのではないでしょうか。はじめての在宅緩和ケアで対応した経験について、まずは石田さんから具体的な事例も含めてお話しいただきたいと思います。

はじめての在宅緩和ケア

石田さん:
ソフィアメディ訪問看護ステーション千種の看護師、石田です。経歴としては看護大学を卒業後、総合病院に就職をして循環器内科や呼吸器内科などの混合病棟で8年間勤務していました。また、委員会業務として入院中の退院支援や退院後訪問などにも携わっていました。訪問看護に転職したきっかけは、今後の働き方を考えたときに、病院内での異動でキャリアアップするよりも、新しい分野にチャレンジしたいと思い、転職を考えはじめました。当時担当していた心不全を患う患者様が入退院を繰り返す中でその気持ちが高まりました。塩分過多な食生活を過ごされていたり、内服忘れがあるような生活状況を見て、病院の整った環境での加療だけではなくて、自宅での健康管理の重要性を実感していきました。それからケアマネジャーの資格を取り、ソフィアメディの東海エリアへの展開のお話をいただいて、千種の初期メンバーとして2019年に入社しました。

私自身、はじめての転職であり、訪問看護という未経験の分野への転職で、さまざまな不安もありました。まずは訪問看護への転職で、私が不安に思っていた3つのことについてお伝えします。

石田さん「訪問看護に転職するにあたり不安だったこと」セミナー資料より引用

一つ目は、私が配属されたステーション千種はソフィアメディとして東海エリアではじめての新規開設だったので、0からのスタートだったということ。

二つ目は訪問看護制度の知識がなかったということ。ケアマネジャーの資格は持っていましたが、訪問看護の詳しい制度については知識もありませんでした。その点、ソフィアメディでは入職後の研修で制度のポイントを教えてくれたので、事前学習はしていなくても学ぶ機会がありました。ただ、紙面上の学習だけでは覚えられないこともあり、実際には現場で症例を通した経験が一番理解が深められたと思っています。

三つ目はがん患者様の緩和ケア、お看取りの経験がほとんどなかったことです。それまでは循環器メインの科で働いていたので、急変対応や治療経過のなかでの看取りはありました。病院のお看取りは医療者がモニター管理や頻回訪室ができる環境ではありますが、在宅では24時間観察できませんから、どのような支援をしていくのかと漠然とした不安がありました。本日は私が入社してから緩和ケアとしてお看取りまで関わらせていただいた2つの事例(独居の方のお看取り事例と、非がんの方のお看取り事例)から得た学びについて、ご紹介させていただきます。

事例の詳細はアーカイブ動画でご紹介しています。
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石田さん:
ご紹介した事例のように、私自身が独居の方を看取るのがはじめてだったこと、徐々にご自身の訴えができなくなる段階における対応、自分自身の判断に迷う場面が多くありました。その都度、先輩看護師や医師に相談しながら介入していきましたが、それでも「あのときこうしてあげればよかった」「こうしてあげていたら違ったのではないか」と思うこともありました。その気持ちを他のスタッフと意見交換をしながら、共有する機会があり、私は2つの事例から以下のことを学ばせてもらいました。

1つ目の事例での学び

Aさん 80代男性 食道癌末期
●ご本人様の希望は「家にできるだけいたい」「ご飯は最期まで食べたい」「死ぬまでに北海道に行きたい」

① 独居でもご自宅でのお看取りが可能
これまでは家族の介護協力がないと自宅での看取りは難しいと思っていましたが、ケアマネジャーと連携を密にとり、状態に合わせたサービス調整をその都度行うことで可能性が広がることを経験しました。

② 本人の希望を叶えるために、チームであの手この手を考える
ご本人の希望を一番に尊重できるよう、関わる支援者やチーム全体で協力、自費サービスなどの活用も行うことで、在宅療養の幅が広がります。

③ お看取り後にチームでケアを振り返る
人の死はたとえ医療者であっても慣れるものではなく、大きく気持ちが揺さぶられるもの。支援者全員でケアを振り返る時間を持つ、気持ちを共有することが自分自身の糧になることを学びました。

2つ目の事例での学び

●Bさん 80代男性 パーキンソン病
ご本人様の希望は「延命治療はしない」
ご家族はご本人様の希望に同意、介護度が上がったら施設入所を考えていた

① 非がんの方のお看取りの経過
非がんのお看取りでは、原疾患として肺疾患や心疾患、老衰などさまざまな対応があります。疾患による機能低下や繰り返す合併症などによって、急激な変化ではなくても、着実に最期に向かっていくことを実感しました。

② ご家族の移り行くお気持ち
療養が長期化すればするほど、ご家族の意向や気持ちが変化し、希望される対応や過ごし方は移りゆくものです。繰り返しACPを行い、一緒に考えていく必要性を感じました。

③ 「延命処置」についての捉え方
胸骨圧迫や人工呼吸器だけでなく、経管栄養や点滴、酸素吸引などの医療行為であっても、ご本人やご家族の価値観や捉え方によっては、延命処置や苦痛な行為になりうることを念頭に置いて、選択を支えていくことが大事で同時に難しさを感じました。

中川さん:
石田さんありがとうございます。森さん、先輩看護師として石田さんの事例について何かコメントはありますか。

森さん:
今、思い出しても胸に余るものがあって、聞き入ってしまいました。1つ目の事例では、ご本人様の想いを最期まで叶えて差しあげたかったし、叶えて差しあげられなかったということで、あのとき一丸となったスタッフにとっては正直、後悔もあったと思います。今でも心に残る事例ですね。ただ、チームでケアを振り返ったときに、往診の先生が言ってくださった言葉が私にはすごくしっくりきました。「旅行は実現しなかったけど、そのときの十分満足できる状態をみんなで考えて、それに向かってやれたんじゃないか」と。自分たちのなかに落とし込めたきっかけにもなりました。ソフィアメディではいろんな経験をされてきたスタッフがいて、横のつながりもあります。相談してみるといろんな引き出しが出てくることもあり、自分たちのステーションはもちろんのこと、他ステーションからも助けてもらいながら日々ケアをしていると思っています。

2つ目の事例に関しては、ご本人が元気だった頃から訪問看護の介入をしていて、最期まで看させていただきました。非がんで状態の悪化や寛解を繰り返しながら徐々に状態が低下していく経過を辿り、繰り返しACPを行う大事さを痛感した事例です。また、病院であれば合併症で誤嚥性肺炎を繰り返していると、「それでも食べさせるなんて」という考えはあるかと思います。しかし、ご本人様やご家族様の想いや希望を尊重し、私たち医療者とケアマネジャーなど多職種で悩みに悩みながら、前に進んでいけた事例かなと思います。私たちも最初は家でお看取りができることは想像もしていませんでしたが、最後の妻様からの「みてあげられた」という言葉から満足感がすごく大きく感じられた事例でした。

石田さん:
ありがとうございます。私が訪問看護をはじめてから感じた病院と在宅でのお看取りの違いは、大好きな家で過ごせること、大好きな家族に見守ってもらえることだと思います。

石田さん「在宅でのお看取り」セミナー資料より引用

もちろん、家で過ごすことは不安も大きいですが、それよりも家で家族と過ごせる安心感は大きく、家族の愛情や安心感はどんな薬よりも生命力を強くするのだと感じました。私たち訪問看護師は、その人にとって安心できる存在になればと考えています。また、在宅緩和ケアではリスクを最小限にできるように対策を講じたうえで、”リスク回避”よりも”希望”を尊重できる、病気だけを看るのではなくて、より人生に寄り添ったお看取りができるのではないかと思います。その人にとってのメリットやデメリット、予測できる経過や可能な対応などをお伝えしながら、移り行く気持ちに合わせた選択を支えていきたいです。

中川さん:
石田さん、ありがとうございます。今回ご紹介いただいた 独居の方や非がんの方のお看取りは一見難しそうと思われがちですよね。一方で丁寧に多職種と連携していくことで柔軟な対応ができて、最期まで在宅で過ごせたというケースもたくさんあると思います。こうした事例の経験を積むことでチームで対応できる幅が広がっていきますね。

在宅緩和ケアのポイント

森さん:
石田さんの発表に続いて、私のほうから在宅緩和ケアのポイントについてお話しさせていただきます。在宅緩和ケアのポイントとして、病院と違う点を大きく6つに分けました。今回は時間の都合上、上の2つについてメインにお話しさせていただきたいと思います。

森さん「在宅緩和ケアのポイント」セミナー資料より引用

在宅緩和ケアで一番重要となってくるのは、多職種との関わりというところで、石田さんの事例でも本当に多くの方々の助けが必要だと感じられたと思います。医療者のみならず、ケアマネジャー、ヘルパーさんなど介護職の方々を含めた各職種が同じ方向を向いているかどうかが重要になってきます。ご本人とご家族様だけではなく、携わる多職種との連携を密にしていくところが大きなポイントです。

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アーカイブ動画では、以下のような内容について話しています。

①在宅緩和ケアのポイントにつづき、疾患の軌道を踏まえたケア、全人的苦痛、最期までその人らしい”いきかた”を支える
②パネルディスカッション、質疑応答
・訪問看護の制度だけでは十分なケアができないと感じるジレンマ。制度外のサービスについて
・人生の最終段階における治療方針、ご本人とご家族の意見の食い違いがあったときの対応について

[文]白石弓夏