訪問看護におけるターミナルケアとは、ご自宅での看取りで大切なこと

訪問看護におけるターミナルケアとは、ご自宅での看取りで大切なこと

近年では在宅療養者の割合が増え、病院ではなく在宅で最期を迎えることもめずらしいことではありません。この記事では、終末期にある患者様が自分の意思と権利を最大限に尊重され、安らかな死を迎えるために必要な訪問看護におけるターミナルケアについて、現役訪問看護師Mさんのアドバイス付きでご紹介します。

ターミナルケアとは

ターミナルケアとは、終末期であると判断された方への治療やケアのことを指します。日本医師会では、終末期の基準は「治療方針を決める際に、患者はそう遠くない時期に死に至るであろうことに配慮するかどうか」であるとしており、終末期医療とは治療方針を決めるための検討のプロセスにおいて「死に至るまでの時間が限られている」ことを考慮に入れる必要があるとしています。ターミナルケアはこの時期に行われるものです。

参考:「ふたたび終末期医療について」の報告

引用:「ふたたび終末期医療について」の報告

これまで終末期とは、主にがん治療において治癒を目指す根本治療を、苦痛を和らげることを中心とした緩和ケアやホスピスケアへと切り替えを行った時点からターミナルケアであるという認識の傾向がありました。しかし、近年ではがんという疾患によらないこと。根本治療から緩和ケアを中心とした医療への切り替えは、ある日突然行われるものではなく、徐々に移行していくものと考えられています。そのため、切り替え時点を終末期の始まりとすることは難しいのです。

また、ターミナルケアは国際的な定義がないために、緩和ケアやホスピスケアと混同されて使われている場面もあります。

・緩和ケア

WHO(世界保健機構)では「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである。」と定義しています。対象疾患や年齢によらず、近年では診断時からはじめられるものとしています。

参考・一部引用:公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団

・ホスピスケア

日本ではがんの患者様を中心に発展してきましたが、国際的にはがんの患者様以外でも対象となります。治癒を目指す治療が望めない時期から終末期を迎える人への全人的な(その人の身体的・精神的・社会的側面など総合的に捉えて)ケアを行います。日本では緩和ケア病棟のことをホスピスと呼ぶため、療養場所だという誤解がありますが、本来は「全人的に患者様へのケアを行う考え方」のことを指します。

参考:がん情報みやぎ

・エンドオブライフケア

ターミナルケアに変わって広く使われるようになっている言葉です。エンドオブライフケアは、健康状態や年齢に関わらず、死について考える人すべてを対象としているという特徴があります。人生の最期により良く生きることを支えるものです。

こうした終末期に関する言葉の定義や使われ方には違いがあるため、今後も言葉の使われ方の変化に注意が必要です。

参考:がん情報みやぎ

訪問看護におけるターミナルケアとは

訪問看護におけるターミナルケアの特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。死に至ることが差し迫っている状態が終末期ではありますが、終末期の在り方は個々の病態や心身状態によってさまざまです。そのなかで、最期を住み慣れた自宅で迎えたいという本人と家族の意思のもと行われるのが、訪問看護におけるターミナルケアです。ターミナルケアでは、身体的、精神的苦痛の緩和や日常生活の援助、本人の尊厳と家族への精神的支援、また本人や家族と医療介護福祉の関係職種が連携しそれらをサポートします。近年では、「在宅緩和ケア」「在宅ホスピス」とも言われています。

病院と在宅でのターミナルケアの違いとして、まず日本の緩和ケアは主に病院で発達してきたものということが挙げられます。基本的には在宅でも病院でも緩和ケアは同じで、ケアが提供される場所の違いが大きいです。特に患者様や家族にとってそれぞれに感じる大きな違いがあります。

例えば、緩和ケア病棟(ホスピス)などの病棟では患者様の生活を第一にしていて、一般病棟とは違い、落ち着いて過ごしやすい雰囲気があります。医師や看護師が常駐しているので、何かあればナースコールで駆けつけてくれます。しかし、家族にとっては、面会時間が決められていることで、夜自宅に戻ってきてから患者様のことが気になったり、病院に毎日のように通うことはそれなりの負担になったります。病院では家族のための環境がそこまで整っていないこともしばしばあり、付き添いの寝泊りではゆっくりと休めないかもしれません。また、病院のホスピスなどは予約でいっぱいですぐに入れないこともあり、待つ間の繋ぎとして、在宅緩和ケアを活用することがあります。

在宅では、住み慣れた自宅でどこに何があるかわかっていて、家族やペットなどが一緒にいる安心感があります。病院のような規則などがないため、基本的には自由度が高いです。しかし、ともに暮らす家族の負担は病院にいるときよりも増える可能性があります。これまで医師や看護師が対応していたことを本人自身や家族が対応することになるかもしれません。そうしたときでも、外部サービスをうまく活用して、24時間365日体制をとっている訪問看護を活用するなど、調整することもできます。

〈M看護師からのアドバイス〉 <strong> <strong>ターミナルの患者様は、どのような段階で訪問看護にくるか</strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉 ターミナルの患者様は、どのような段階で訪問看護にくるか
私がいたステーションでは、がんのお客様が多く、そのほとんどが病院で余命の告知を受けて、積極的な治療はしていない最期の段階に近い状態で療養生活を中心とする訪問看護に移行されるケースが多かったです。一ステーション例ですので、ステーションや地域によっても疾患や移行される段階は様々です

ターミナルケアで求められる訪問看護の役割

終末期の過程においては、全人的なケアを行うことと、患者様が死をどのように受け止めていくか、これからどのように過ごしていきたいかなど、意思決定支援にもとづく関わりが重要です。それぞれに個々の価値観があり、本人や家族の想いも日々変化していくことがあります。そのため、病院にいるときから医師や看護師、訪問看護ステーションが連携を図ること、退院前カンファレンスへの参加、こまめな意思確認などが求められます。

また、実際に訪問看護で受け入れる際には、在宅における医療体制を理解してもらい、かかりつけ医を明確にし、訪問診療と訪問看護を基本に医療を行うこと、緊急事態ができるだけ起こらないように日頃から先取りのケアを行うことも大切です。これらのことは看護師のみならず、多職種協働のチームケアを意識し、緊急時や看取りに携わる職種へのターミナルケア教育、情報共有するためのツールやマニュアルなども必要となるでしょう。

実際に訪問看護では、24時間連絡できる体制を確保し、必要に応じて訪問できる体制をとっている事業所もあります。「ターミナルケア加算」という加算もあり、主治医との連携によってターミナルケアに関する計画を立案し、支援体制について患者様や家族へ説明して同意を得た上でターミナルケアを行っている、またその記録がなされていることなどの算定要件があります。

〈M看護師からのアドバイス〉 <strong> <strong> <strong>ターミナルケアで訪問看護師に求められること</strong> </strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉 ターミナルケアで訪問看護師に求められること
ソフィアメディの行動指針のなかに『「呼吸」や「間」を合わせる。』という言葉がありますが、とても大事なことです。お客様やご家族様は、それぞれに準備の仕方があります。私たち訪問看護師はお客様やご家族様がこの大切な時間をどう過ごしていきたいかを一緒に考えて共有していくこと、そしてその場を作ってさしあげられるようなサポートを大切にしています。
また、ターミナルの時期には「大切な人が自分の人生からいなくなってしまうかもしれない」という家族の予期不安があります。訪問看護師として関わる上で、その見通しがつくようにお手伝いするというのが基本になります。「段々とおしっこの量や回数が減ってきます」「呼吸が荒くなってきたら、そろそろというサインです」などのように、ひとつずつその場でご家族へ説明し、ご家族が家族らしく対応されるように見守ることが大切です。

ターミナルケアや看取りに関する課題

ターミナルケアや看取りに関する現場での課題はさまざまなものがあります。例えば、告知における問題や患者家族の問題、死の概念や捉え方の問題などです。適切なインフォームドコンセントがなされていないままの告知や治療方針の決定、本人と家族内におけるコミュニケーション不足や意見の不一致、介護力不足、患者様や家族が死の受け入れができず、感情的に不安定な状態のまま今後の方針決定が行われるなどが考えられます。

また、医師や看護師などの医療者と患者様や家族との関係性の問題、ターミナルケアや緩和ケアに関する知識・技術不足なども考えられます。不十分な緩和ケアや人工的水分栄養補給の捉え方においては、時代とともに考え方が変わってきているため、常にアップデートしていくことが求められるでしょう。

そして、大きな枠組みとしては、生活の場で最期を迎える際に生じる介護ニーズ、生活支援ニーズ、精神的心理的苦痛、スピリチュアルな苦痛などに対応できる包括的なケア体制が整備されていないことも課題のひとつにあげられます。

〈M看護師からのアドバイス〉 <strong> <strong> <strong> <strong>現場で感じるターミナルケアの難しさ、課題</strong> </strong> </strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉 現場で感じるターミナルケアの難しさ、課題
ターミナルケアでは、ご家族のみならず看護師でも「私が〇〇しなかったから」「あのときもっとこうしてさしあげたらよかった」と自罰的、他罰的になる人もいます。関わっているそれぞれの人が納得できるように「これでいいんですよ」ということを、ちゃんと伝えるということも大切だと感じます。
ターミナルケアに限らず、これが正しいという答えはありません。ここで麻薬を使うか、ここで吸引をするか、その一つひとつの行動をすべきか、必要か、安楽かなど考えます。お客様やご家族、看護師や医師などと話し合いながら、それでもすべて解決できるわけではないので、そうした不消化に感じる部分も受け止めながら考え続けていくしかないでしょう。こうしたことをひとつずつ積み重ねて、お客様にとっての最善を尽くしていくことが大事だと思います。

ターミナルケア、看取りで大切なこと

人生の最終段階における医療・ケアにおいては、できる限り早期から肉体的な苦痛などを緩和するためのケアが行われることが重要です。そして、医師や医療者から適切な情報の提供と説明がなされ、本人のこれまでの人生経験や価値観、どのような生き方を望むかを含め、できる限り把握すること。医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要です。

しかし、本人が自らの意思を伝えられない状態であったり、または医療・ケア内容の変更・中止を訴える可能性もあります。本人が家族や信頼できる方を含めての話し合いを、医療・ケアチームと繰り返し行うことが大切です。さらにそれらのプロセスをその都度記録にまとめておくことを忘れないようにしましょう。

ターミナルケアにまつわる概念、知識やスキル

ターミナルケアにまつわる概念や知識、スキルにもさまざまなものがあり、広く学んでいく必要があります。

例えば、死に至るプロセスではキューブラー・ロスの「死の受容過程」があります。死の兆候として臨終前に出現しやすい症状には呼吸・循環・血圧・意識に現れる変化がみられます。「緩和医療行動スケール(Palliative Performance Scale)」のようにスケールを使って評価していく方法もあります。

参考:日本終末期ケア協会 臨終前の症状について

聖隷三方原病院 症状緩和ガイド

また、終末期における4つの苦痛「全人的苦痛(トータルペイン)」は①身体的苦痛、②精神的苦痛、③社会的苦痛、④スピリチュアルな苦痛とされています。がん性疼痛に対する薬物療法の基本的な考え方としては、WHOの「3段階除痛ラダー」などもあります。

参考:日本ペインクリニック学会 WHO方式三段階鎮痛法

引用:がん治療~トータルペイン(全人的苦痛)心のケア|がんを学ぶ【ファイザー】

さらに、意思決定支援やそのプロセスに関するもの、ターミナルで行われるケアでは、最近人生会議として話題となっている「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」や「リビング・ウィル(人生の最終段階における事前書)」、逝去時に患者様に行う最期のケアとして「エンゼルケア」、さまざまな喪失を体験しグリーフを抱えた方々に対するケアとして「グリーフケア」という支援などもあります。

他にも医療や看護に限らず、自己とは何かという哲学的な概念追求や死生観に関する哲学や宗教思想なども関わってくることもあり、広く学ぶためにはこうした部分に触れてみることもひとつの方法でしょう。

〈M看護師からのアドバイス〉<strong><strong><strong><strong><strong><strong>ターミナル、看取りで大切なこと</strong> </strong> </strong></strong></strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉ターミナル、看取りで大切なこと
訪問看護ではお客様や家族と関わる時間は、長くても1日1時間半ほどしかありません。その時間をいかに有意義に関わるかが大事です。また、訪問に伺う看護師だけがターミナルケアを行うわけではありません。病院やクリニック、訪問看護ステーションなど含めた地域そのもので、みんなで高め合ってお客様の人生を大事にしていこうというのは、訪問看護ならではだと思います。
※私のいたステーションでは、ターミナルケアに関するパンフレットをスタッフが作成し、活用しています。

▲ソフィアメディ訪問看護ステーション元住吉のスタッフが実際に作成したパンフレットの一部

さいごに

訪問看護におけるターミナルケアで最も重要なのは、患者様や家族の意思を尊重することです。訪問看護師はその意思決定に深く関わる職種として、患者様やその家族が少しでも穏やかに自宅で過ごせるように支えていきます。

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