第3回 訪問看護のセラピストに必要な能力とは?

第3回 訪問看護のセラピストに必要な能力とは?

はじめに

これまでに訪問看護の役割についてご紹介いたしました。第1回では、地域包括ケアシステムの社会背景から今後期待される訪問看護ステーションについて解説し、前回(第2回)では、「訪問リハビリテーション」と「訪問看護ステーションからの理学療法士等による訪問」の違いについて解説しました。

今回は、訪問看護のセラピストに必要だと思う能力について、3つ紹介いたします。

吉倉孝則(よしくらたかのり)
吉倉孝則(よしくらたかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器・管理運営)。
星城大学リハビリテーション学部から浜松医科大学附属病院リハビリテーション部へ入職し、急性期リハビリテーションに従事。2016年日本理学療法士協会に入職し、平成30年度(2018年)診療報酬・介護報酬同時改定に向けた事業を担当。その後、厚生労働省保険局へ出向し、予防・健康づくり、データヘルス関連施策を担当。2021年に帰任し、予防健康づくり関連事業を担当。星城大学大学院健康支援学研究科修了。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科在学中。

スペシャリストでありジェネラリスト

訪問リハビリテーションと訪問看護ステーションからの理学療法等の訪問(以下、訪問看護からのリハ)など生活期のリハビリテーションに携わるには、スペシャリストの能力が必要か、ジェネラリストの能力が必要かという議論がよくあります。これは理学療法士等セラピストに限ったことではなく、医師や看護師でも言われていることです。

スペシャリストとは、特定の分野の知識を比較的狭く深く持っている人のことです。例えば、心臓リハビリテーションなど循環器についての知識が豊富で、認定理学療法士などの専門資格を持っていることも一つでしょう。

一方で、ジェネラリストとは、複数の分野の知識を広く浅く持っている人のことです。

在宅でのリハビリテーションでは、多様な病気や疾患を抱える患者様・利用者様がおり、第1回でも述べた通り、高齢者の方の中には複数の疾患を併発していることも多くあります。また、介護保険の制度や各種サービス、住宅改修、福祉用具のレンタルなど周辺の知識も求められます。さらに、病院では理学療法士、作業療法士がそれぞれ理学療法・作業療法を提供しますが、訪問看護からのリハビリの場合、訪問回数に限りがあるためリハビリセラピストとして理学療法・作業療法の両方の視点をもって対応することが求められることも多々あります(本来は理学療法士、作業療法士がそれぞれ訪問したくてもできないケースが多い)。理学療法士が基本的動作や歩行能力獲得を目指した理学療法に加えて、入浴などのADLや料理や洗濯などといった手段的日常生活動作(IADL)といった生活行為へのアプローチなど作業療法的な視点も求められ、逆に作業療法士は理学療法的な視点も求められます。このようなことから、訪問看護のリハビリでは、ジェネラリストとしての能力が求められるのです。。

ただ、ジェネラリストとして幅広い知識を持っているだけでは十分ではなく、スペシャリストと同じように各分野の深い知識も持っておく必要があると思います。ジェネラリストとして幅広い知識が求められる訪問看護のセラピストですが、各領域の知識が浅くてもよいというわけではありません。在宅医療において、より重度化した方の対応や看取りにも対応するためには、各領域について高い知識・技術が求められます。まさにスペシャリストでありジェネラリストである必要があります。これらは、一朝一夕でできるものではないため、常に自己研鑽をすることが求められます。

情報収集する能力の必要性

在宅医療では、慢性疾病の複合疾病、重症者、ターミナルケア・看取りといった役割が期待されています。病院と違うのは、医師や看護師の目が必ずしも毎日入るわけではないということです。在宅医療では、セラピストやヘルパーなど介護サービスも含めて入れ代わり立ち代わり訪問しサービスが提供されます。厚生労働省の資料によると訪問看護ステーションにおける訪問看護費の請求回数は、理学療法士等による訪問が増加しており、特に要支援における理学療法士等による請求の割合が高いとされています(図1)。つまり、要介護度の低い人ほど、訪問看護の一環で理学療法士等のリハビリセラピストが訪問している割合が高いということであり、逆に言うと看護師の訪問回数が少なく、看護師の目が届いていないことになります。その中で、セラピストには、患者・利用者の状態など変化がないか情報収集する能力が求められます。

図1訪問看護ステーションにおける理学療法士等による訪問看護の現状

引用:第182回介護給付費分科会資料3

情報収集には様々な方法があります。一つは本人や家族から話を聞くことです。例えば、尿や便などが変わりなく出ているか、食事は摂れているか、睡眠状況は問題ないか、こういった情報を確認し、状態に変化がないか確認することが必要です。また話を聞くだけでなく、身体の状態からも情報収集をする必要もあります。血圧や脈拍、呼吸状態などフィジカルアセスメントをして変化がないか情報収集をします。心臓や腎機能が悪ければ、身体が浮腫むことがあります。こういったちょっとした変化に気がつけるかも大事な能力です。まさに、問診・視診・触診・聴診・打診などのフィジカルアセスメント能力です。

病院であれば、医師や看護師が兆候に気がついたかもしれませんが、在宅の場合であると、毎日その目が入るとは限らず、セラピストが変化に気がつくこともあります。医師ではないので、診察をする必要はありませんが、いつもと違うことがないかなど状態の変化に気を配り、変化があれば、それを同じ訪問看護ステーションの看護師や必要に応じてかかりつけ医、ケアマネジャー、他の事業所からサービス提供しているヘルパーなどにも共有することが必要です。自分だけ知っていた、カルテには書いたでは不十分なのです。厚生労働省の平成27年度の調査によると、理学療法士等から看護職員への連絡が「よくある」との回答が61%、「ときどきある」まで含めると92%でした。また、看護職員から理学療法士等への連絡が「よくある」との回答が56%、「ときどきある」まで含めると89%でした(図2)。このようにみんなで情報共有しながら、患者様・利用者様の在宅生活を支えることが求められます。

図2訪問看護ステーションの理学療法士等と看護職員との連携

引用: 引用:第150回介護給付費分科会資料5

社会人・専門職として問われる信頼される人間性

訪問看護のリハビリは、患者・利用者の自宅でのサービス提供となります。そのため、本人や家族から「信頼」されることがより求められます。

想像をしてみてください。自分が知らない人が自宅にあがってきて、自分の身体に触れたり、家にある物を使用したりする。私たちセラピストにとっては業務の一環として当たり前のことかもしれませんが、患者様・ご家族様からすると心配になることがあります。当然、泥棒ではないし怪しい者でもありません。しかし、ご自宅にあがってサービスを提供するということは、信頼関係が重要となります。

では、どのように信頼関係を構築するのでしょう。患者様・ご家族様との丁寧なコミュニケーションをしていくことで信頼を得ることができます。その他にも、髪型、服装といった身だしなみ、万が一遅刻するときにはは連絡を入れるなど社会人としてのマナーも求められます。これは病院のセラピストも同じことではありますが、環境が病院と自宅では、異なります。患者様・利用者様の自宅に伺って、まさにテリトリーにお邪魔してサービスを提供するということは「信頼関係」がより重要となります。

さいごに

今回は、訪問看護のセラピストに必要だと思う能力についてご紹介いたしました。

スペシャリストでありジェネラリストとして、各領域の幅広い知識と高度な知識技術が同時に求められ、ちょっとした変化にも気がつくことができる情報収集の能力が必要です。さらには、患者様・利用者様や家族と信頼関係を構築できるように社会人としてのマナー、コミュニケーション能力が求められます。これらを読むと、訪問看護のセラピストとして働けるのか不安になるかもしれません。でも、不安に思っても大丈夫です。同じ事業所のセラピストの先輩、看護師などに相談しながら、これらの能力を高めていけばよいのです。このような真摯に向き合おうとする姿勢が、もしかしたら一番必要な能力かもしれません。

次回は、看護師との連携などについて紹介します。