第4回 訪問看護だからこそできるリハビリとは?

第4回 訪問看護だからこそできるリハビリとは?

はじめに

これまで3回にわたって訪問看護ステーションからのリハビリ等の訪問(以下、訪問看護からのリハビリ)について書いてきました。第1回では、地域包括ケアシステムの社会背景から今後期待される訪問看護ステーションについて、第2回では、「訪問リハビリテーション」と「訪問看護ステーションからのセラピスト等による訪問」の違いについて、第3回では、セラピストに必要な能力について紹介しました。

今回が最後になります。第4回では、訪問看護だからこそできる看護師と連携したリハビリについて紹介したいと思います。

吉倉孝則(よしくらたかのり)
吉倉孝則(よしくらたかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器・管理運営)。
星城大学リハビリテーション学部から浜松医科大学附属病院リハビリテーション部へ入職し、急性期リハビリテーションに従事。2016年日本理学療法士協会に入職し、平成30年度(2018年)診療報酬・介護報酬同時改定に向けた事業を担当。その後、厚生労働省保険局へ出向し、予防・健康づくり、データヘルス関連施策を担当。2021年に帰任し、予防健康づくり関連事業を担当。星城大学大学院健康支援学研究科修了。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科在学中。

看護との連携でサービスの質向上

訪問看護からのリハビリは、同事業所内の看護師と連携してリハビリを提供できることが「一番の強み」だと思います。前回も紹介しましたが、厚生労働省の平成27年度の調査によると、理学療法士等(セラピスト)から看護職員への連絡が「よくある」との回答が61%、「ときどきある」まで含めると92%であり、看護職員から理学療法士等への連絡が「よくある」との回答が56%、「ときどきある」まで含めると89%でした(図1)。さらに、平成30年度(2018年)の診療報酬・介護報酬改定では、訪問看護における看護師と理学療法士の連携を強化することを目的に、セラピストが訪問看護を提供する場合、看護師による定期的な訪問により、利用者の病状及びその変化に応じた適切な評価を行うこと、さらには、訪問看護計画書及び訪問看護報告書は看護師とセラピストが連携して作成するように求められました。

図1 訪問看護ステーションの理学療法士等と看護職員との連携

引用:厚生労働省 第150回社会保障審議会介護給付費分科会 資料5

このように、セラピストから看護師、看護師からセラピストとお互いに持っている専門性を活かして、情報共有をしながら在宅での患者様・利用者様の医療・ケア・リハビリを支えていくことが重要です。

例えば、セラピストからは、現在の歩行能力や立ち上がり能力、ADLの状況や今後の予後予測、必要に応じてポータブルトイレ、手すりといった福祉用具の導入、杖などの歩行補助具の使用などについてより精度高く情報提供できるでしょう。看護師からは患者様・利用者様の病状の変化、予後予測、褥瘡や栄養、服薬状況など医療ケアの状況などの情報を入手し、患者様・利用者様へのリハビリにその情報を活用することができます。

平成29年度に実施された「訪問看護事業所における看護職員と理学療法士等のより良い連携のあり方に関する調査研究事業」では、看護師とセラピストの連携の効果について調査されております。利用者への効果として「ADL維持改善」、「QOL維持改善」、「生活習慣の維持」があがっています(図2)。また、サービスの質への効果として「看護職員と理学療法士等が共通認識のもとに統一したサービスの提供ができる」、「利用者や家族のニーズに沿った目標設定ができる」、「利用者の心身機能に合わせた段階的なリハビリテーションの提供ができる」といった結果が示されました(図3)。さらに、事業所への効果として、「他職種共同の意識が高まる」、「職員の能力向上につながる」といった項目があがっています。この調査研究事業では、「訪問看護ステーションにおける看護職員と理学療法等との連携の現状調査と手引き」も作成されており、連携のあり方やポイントなどが解説されています。訪問看護で働く、看護師、セラピスト双方に是非目を通すことをおススメします。詳細は、本記事の末尾にある参考資料をご覧ください。

図2 看護職員と理学療法士等の連携による利用者への効果【複数回答】
図3 看護職員と理学療法士等の連携によるサービスの質への効果【複数回答】

引用:一般社団法人全国訪問看護事業協会 訪問看護事業所における看護職員と理学療法士等のより良い連携のための手引き

これまでの連載でも紹介しましたが、今後、在宅医療・介護サービスを支える訪問看護として、重症者、ターミナルケア・看取りなどが期待されており、そのような患者様・利用者様に対してセラピストがリハビリを提供する際には、看護師からの情報は非常に有用で、リスク管理にもつながります。また看護師にとっても、リハビリの視点で患者様のアセスメントされた情報を入手することで看護のケアの質を高めることができると思います。このように、看護師とセラピストが密に連携することは双方にとってメリットがあり、さらには患者様・利用者様に質の高いサービスの提供につながります。もちろん、他事業所同士でも情報共有・連携は可能ですが、同事業所内に看護師とセラピストがいて、常に相談ができたり、ときには一緒に患者様・利用者様のご自宅に訪問できるのが訪問看護ステーションの魅力です。

緩和リハビリでの看護とセラピスト連携の経験

看護師との連携について、私の経験を紹介します。私は、訪問看護ではなく大学病院で理学療法士として働いていました。急性期のリハビリに従事しながら、院内の緩和ケアチームに所属して、がん患者や緩和ケアの患者のリハビリ、さらには、チーム内で理学療法士の立場から意見を述べたりすることもありました。主治医から緩和ケアチームにサポート依頼があった場合、まずは看護師が情報収集し、チームメンバーでカンファレンスをしてどのような方針でサポートするか検討していました。カンファレンスの時間以外にも私の院内PHSが鳴り、看護師から「患者様がこういう状態なのだが、リハビリできそうか」などタイムリーにアドバイスを求められるなど、意見交換をしていました。リハビリが必要であれば、主治医より改めてリハビリテーション科に依頼があり、私を中心に理学療法士、作業療法士が対応しました。

 私がリハビリを開始する際にも、事前に看護師から痛みの状況や、そのコントロール状況(医療用麻薬等で疼痛管理)を確認し、何時ごろに痛みが落ち着いていてリハビリができそうなのか、本人の精神状態、主治医からの告知されているのかなど確認したうえで、実際に患者様の病室へ伺いました。またリハビリ開始後は、ご本人様から聞き取った情報やADLの状況、機能回復の見込みなどを緩和ケアチームで共有しました。

また、緩和ケアの患者様のリハビリを担当していると、当然お亡くなりになる方を担当することも多く経験しました。常に情報共有しながらリハビリを実施していますし、それなりに予後予測は頭に入れてはいますが、一緒にリハビリをしてきた担当の患者様が亡くなるのは、やはり悲しいものです。ときには、本当に「患者様のため」になったのかなど無力感を感じたり落ち込むこともありました。そんなときに、緩和ケアチームの看護師から「患者様はリハビリを楽しみにされていましたよ」、「最後の時間まで(亡くなるまで)目標に向かっていたことはQOLを高めていたと思います」と声をかけてもらい心救われたこともあります。

このように、ターミナルケア・看取りに対応する看護師やセラピストはバーンアウト(燃え尽き症候)に陥ることがあります。双方でコミュニケーションを取って、職場内でサポートすることも重要となります。

私の経験は病院での経験ですが、これらは、ターミナルケア対応も多く求められる訪問看護でも同じだと思います。実際にリハビリをしない患者様・利用者様であっても、必要であればリハビリの視点からアドバイスを行ったり、リハビリをする際には事前に患者様の状態を情報収集したうえで自宅に訪問し、リハビリの状況を共有し、看取りがあっても共に支え合うことが大切になります。

訪問看護に携わる人に読んでほしい本

ここまで、看護師と理学療法士等セラピストの連携の話をしてきました。最後に少しだけ話題を変えて、1冊の本を紹介したいと思います。

私が紹介したい1冊は、佐々木涼子の著書「エンド・オブ・ライフ」です。こちらは、看取りを多く経験してきた訪問看護に従事していた看護師自身ががんになり命の閉じ方について描かれているノンフィクションの内容です。実際の訪問診療、看護、介護の場面での人それぞれの生き方、最後の過ごし方について描かれています。私自身も最近この本のことを知り、読んでみましたが、看取りにどのように関わり、そして自分自身もどのように生きていくべきか考えさせられる1冊でした。ぜひ、在宅医療にかかわる看護師、セラピストの皆様には読んでいただきたい内容です。

まとめ

これまで4回にわたって理学療法士の視点から訪問看護について述べてきました。地域包括ケアシステムが構築され、住み慣れた地域で最後まで過ごすためには、それを支援する訪問看護の役割は大きく、必要なサービスです。特に、重度者、ターミナルケアの患者様・利用者様への対応が訪問看護では求められています。そのなかで、看護師と連携して自宅での生活を支える訪問看護からのリハの役割も重要となります。もっと言うと、看護師と連携しながらリハビリができるのは、とてもメリットも多く、訪問看護からのリハビリの意義も大きく、社会から必要とされるサービスだと思います。そして、より質の高いサービスが提供できるようにセラピスト自身も能力の研鑚が求められるでしょう。

すでに訪問看護で働いているセラピスト、そしてこれから在宅医療の分野、地域で活躍していきたいと思っているセラピスト、さらには看護師や介護職員など様々な方にとっても少しでも参考となる連載であったのであれば嬉しいです。超高齢社会、医療・介護費の急増など社会保障制度の持続性など社会課題が多くある日本ですが、皆さんの力で地域を支え、元気にしていきましょう。

引用・参考資料

第150回社会保障審議会介護給付費分科会 資料5:厚生労働省

訪問看護事業所における看護職員と理学療法士等のより良い連携のための手引き:一般社団法人全国訪問看護事業協会

・エンド・オブ・ライフ:佐々木涼子(集英社)