日本は、2010年に高齢化率23%を超え、超高齢社会を迎えました。高齢化率は今後も増え続けると言われており、病床数不足や医療費逼迫が社会問題となっています。その問題を解決する一つが、入院治療から在宅療養への移行です。
在宅医療ニーズの高まりに伴い、訪問看護ステーションで働くセラピストの数は年々増加しており、理学療法士では2001年時点で5.1%だったのに対し、2019年には22.2%となっております。
出典:「中央社会保険医療協議会 第493回資料」(厚生労働省)
約20年前に比べて4倍近く増えていますが、病院で働くセラピストの数と比べると、まだまだ少ないものです。具体的な仕事内容や働き方をイメージできる方は多くないかもしれません。
今回は、訪問看護の仕事内容の概要とソフィアメディで働く理学療法士さんの1日のスケジュールをご紹介します。訪問看護におけるセラピストの働き方をみなさんにもイメージしていただければと思います。
訪問看護の主な仕事内容
訪問看護は、お客様の生活の質を確保することを重視しながら、日常生活の動作能力を維持・向上させるとともに、ご家族や地域からの支援により、住み慣れた場所で充たされた生活を継続できるようにすることが重要です。
訪問看護の主な仕事内容は、①訪問業務、②記録・書類作成業務、③他職種連携・地域医療連携の3つからなり、これは看護師とセラピストで大きな違いはありません。①訪問業務は以下のようなものが挙げられます。
- 健康状態の観察(病気や障がいの状態、血圧・体温・脈拍などをチェックし、異常の早期発見や病状変化の予測と対応)
- 在宅療養上の世話(身体の清拭、洗髪、入浴介助、食事や排泄などの介助。ご家族への介護方法、介護予防のアドバイスなど)
- 医師の指示による医療機器の管理と医療処置(在宅酸素、人工呼吸器などの医療機器管理、点滴、胃ろう・留置カテーテルといった各種カテーテル管理、インシュリン注射、創処置など)
- ターミナルケア(がん末期や終末期を住み慣れた場所で過ごせるよう包括的支援)
- 薬の相談・指導(薬の作用・副作用の説明、内服指導、残薬確認など)
- 認知症・精神疾患のケア(利用者と家族の相談、対応方法の助言など)
- 在宅でのリハビリテーション(自立支援のための生活リハビリテーション、拘縮予防や機能の回復、嚥下機能訓練、呼吸訓練、生活環境の整備、福祉用具の利用相談など)
①訪問業務のなかで「在宅療養上の世話」や「医師の指示による医療機器の管理と医療処置」、「ターミナルケア」、「薬の相談・指導」は看護師が行います。
こちらの記事では、訪問看護師の主な仕事内容がまとめられていますので、合わせてお読みいただければと思います。
訪問看護におけるセラピストの役割
看護師は、主にお客様の健康状態や生活状況、家族の状況を包括的にアセスメントし、お客様の持つ力を最大限に発揮させることができるよう心身の健康管理や療養生活継続の支援を行うことが求められます。それに対してセラピストは、身体・精神機能だけでなく、日常生活動作および住環境・福祉用具等の環境面をアセスメントしたり、活動機会、社会参加をご提案したりと幅広い視点での関わりが求められます。
そのため、リハビリの依頼内容も多岐にわたります。具体的には以下のような依頼内容があります。
- 脳血管疾患による片麻痺の影響から、最近転倒が増えている
- 骨折後、病院から退院したが屋外歩行がまだ不安
- 年齢による筋力低下のためトイレまでの移動が大変
- デイサービスに通うための、自宅の階段昇降が大変になってきた
- お孫様の結婚式に歩いて参加したい
- ご家族様の介護負担があり、もっと楽に介助できるようになりたい
豊富な経験がないと訪問看護は難しいというイメージがあるかと思いますが、訪問看護ステーション利用者の傷病別内訳を見ると、脳血管疾患が15.4%で最も多く、次いで筋肉骨格系が9.0%、認知症(アルツハイマー病含む)が8.6%、悪性新生物が8.3%の順になっています。
病院やクリニックのような医療機関で勤めるセラピストは脳血管疾患や筋肉骨格系の患者様を担当する機会が多いため、訪問看護の場でもその知識や技術を発揮することができます。また、セラピストの職種によっても、在宅医療のなかで資格を活かせる部分が変わってきますので、ご紹介させていただきます。
理学療法士
主な業務内容には、サービス利用者の身体機能などを確認したり、住宅環境や福祉用具の有無などの点を評価したり、寝返りや起き上がりなどの基本動作や、排泄時や入浴時の動作、外出時の動作の確認などを行ったりします。他にも、必要に応じた適切な福祉用具の提案なども行います。
作業療法士
作業療法士は、サービス利用者のバイタルチェックや身体機能などの評価、日常生活動作訓練に加え、住宅環境の整備のサポートやアドバイスなども行います。他には、サービス利用者と同居する家族に介護指導を行ったり相談に乗ったりもします。訪問看護ステーションで働く作業療法士は、利用者の自宅を訪問した際は基本的に一人で作業を行います。
言語聴覚士
訪問看護ステーションでの言語聴覚士の業務は、利用者が自宅で生活するにあたっての言語訓練から食事(摂食・嚥下)訓練、高次脳機能訓練を行うことです。また、利用者への直接的なリハビリだけではなく、利用者の家族や介護者に対して、利用者とのコミュニケーションを円滑にするための提案や指導も行います。
セラピストの1日のスケジュール
実際にソフィアメディで働く理学療法士さんに、1日のスケジュールについて伺いました。
※理学療法士歴8年目、訪問看護歴3年目のBさん。ある1日を参考に作成。お客様情報やケアの内容は、個人を特定できないように改変しております。
時間 | 仕事内容 | 詳細 |
8:45 | 出社 | ・制服に着替える ・当日のスケジュール、カルテの確認 |
9:00 | 朝礼、ステーションの環境整備 | ・経営方針書の読み合わせ ・全スタッフでのスケジュール確認 ・スタッフ間での情報共有 ・ステーション内の掃除 ・お客様の情報収集、必要時訪問時間変更の電話連絡 ※週明けや祝日後、場合によってその際の体調や変化をご家族やケアマネジャー、 状況によっては主治医へ報告 ・必要物品の確認、補充 |
9:15 | 訪問へ出発 | |
9:30 | 訪問1件目 | 90代、慢性腎不全のお客様 ・介護保険 ・60分訪問: ①バイタル測定、服薬状況の確認 ②全身状況の確認を行いながらリラクゼーション、関節可動域訓練を実施。 ③臥位で体幹や下肢の筋力増強訓練を実施。 ④立ち上がり動作を通して下肢の筋力増強を図る。 ⑤室内での歩行訓練、階段昇降動作訓練を行い、移動動作能力の確認、 転倒リスクの評価。 |
10:30 | 移動 | ※次のお客様のところに早く着いた際は、1件目のお客様のカルテを記載 |
11:00 | 訪問2件目 | 77代、パーキンソン病のお客様 60分訪問:バイタル測定、全身状態の確認、リラクゼーション、関節可動域訓練、筋力増強訓練、バランス訓練、歩行訓練、自主トレーニングの指導、ご家族に現状やリスクの共有 |
12:00 | 移動 | |
12:10 | 昼休憩 | ・ステーションに戻り、昼食を食べる ・30分訪問であれば、午前中に3件訪問することも ・昼休憩に入る時間は訪問件数によって前後する ・必要時、他職種へ状態報告の連絡や折り返しの連絡をする |
13:10 | 移動 | |
13:20 | 訪問3件目 | 80代、リウマチ性多発筋痛症のお客様 60分訪問:バイタル測定、全身状態の確認、痛みの評価、リラクゼーション、関節可動域訓練、筋力増強訓練、立ち上がり動作訓練、歩行訓練、入浴動作訓練、環境整備や生活上の注意点をご提案 |
14:20 | 移動 | |
14:30 | 訪問4件目 | 80代、慢性関節リウマチのお客様 40分訪問:バイタル測定、全身状態の確認、筋力増強訓練、歩行補助具の検討、歩行訓練、自宅内の環境調整 |
15:10 | 移動 | |
15:30 | 訪問5件目 | 80代、慢性腎不全のお客様 40分訪問:バイタル測定、全身状態の確認、リラクゼーション、関節可動域訓練、筋力増強訓練、バランス訓練、歩行訓練、自主トレーニングの指導 |
16:10 | 移動 | |
16:30 | 訪問6件目 | 90代、慢性心不全、認知症のお客様 40分訪問:バイタル測定、全身状態の確認、リラクゼーション、関節可動域訓練、筋力増強訓練、基本動作訓練、歩行訓練、ご家族に現状やリスクの共有 |
17:10 | 移動 | ステーションへ戻る |
17:20 | 書類業務、報連相 | ・日々の記録 ・看護師との情報共有 ・ケアマネジャーへ初回訪問の報告や現状報告 ・医師へ状態報告 ・スケジュール調整 ・着替えて制服の洗濯 ※月末は計画書、報告書作成などの書類業務も行う |
18:00 | 終業 | ※その日の状況で残業あり ※訪問件数が多い日には18:30頃まで記録や計画書・報告書の作成に追われることも |
ワークライフバランス
訪問看護で働くセラピストの仕事内容や働き方について、実際にソフィアメディで働く理学療法士さんの1日のスケジュールとともにご紹介しました。訪問看護ステーションで働くことをなんとなくイメージしていただけたでしょうか?。訪問看護では、1日のスケジュールが立てやすく、時間単位での休暇取得、訪問がないスキマ時間の活用など、ある程度の自由さがあることも働きやすさのひとつです。これからの働き方を考えるうえでぜひ参考にしてみてください。
[文]岡田紘平
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