2023年2月15日に開催された、第5回ソフィアメディ在宅療養総研セミナーでは、兵庫県看護協会西播支部で地域連携委員を務め、看看連携の一つとして看護情報提供書等の整備に携わった木村病院で看護部長として勤務されている認定看護管理者の成定啓子さん、近畿大学病院がん相談支援センターで勤務されている緩和ケア認定看護師の原武めぐみさんをお招きし、ソフィアメディからは訪問看護ステーション堺中央の管理者、老人看護専門看護師である志賀桂子さんが登壇し、病院と在宅をつなぐ看看連携についてお話しいただきました。
登壇者プロフィール
医療法人佑健会 木村病院 看護部長
認定看護管理者/医療福祉連携士/POOマスター
近畿大学病院 がん相談支援センター
緩和ケア認定看護師
ソフィアメディ訪問看護ステーション堺中央 管理者
老人看護専門看護師
ソフィアメディ在宅療養総研 所長
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中川さん:
セミナー後半は、ソフィアメディから訪問看護ステーション堺中央の管理者であり、老人看護専門看護師でもある志賀さんから看看連携の具体的な実践についてご共有いただきたいと思います。
訪問看護ステーションからできる看看連携
志賀さん:
ソフィアメディに入社し、ステーション堺中央の立ち上げから現在まで地域連携活動を積極的に行っています。連携先はパートナーだと捉え、パートナーと連携することが本当の看護のあるべき姿だという観点で日々取り組んできました。病院経験のある私が在宅の世界に飛び込んで最も強く感じたことは、在宅側には医療的側面の情報が圧倒的に少ないということです。病院と在宅では情報の格差が非常に大きいと思います。
事例を通して感じた課題
志賀さん:
コロナ禍におけるケースでは、ご家族が自宅に連れて帰りたいと強く希望されていましたが、面会制限があり家族に退院前指導が十分行えていない状況等もあります。例えば吸引指導が必要なのに行えていない状況で、主治医の見解では自宅退院してもすぐに肺炎を発症して入院になるかもしれないとのことでご相談いただいたこともあり、医療的な情報がすごく少ない中で対応における困難さを感じました。病院の看護師さんからは「在宅側の状況が整ったら帰れます」と情報提供頂くのですが、何がどう整ったらいいのかということは、具体的にイメージはついていないことも多いです。できる限り私はステーションのスタッフとすり合わせをしたうえで、病棟看護師と直接電話でやりとりをするようにしています。
例えば吸引が必要ということであれば、ネブライザーを使っているのか、今までトラブルはあったか、自分でできることはあるか、などお聞きして「必要があれば在宅でもネブライザー付きの吸引器もあるので準備しますよ」とお伝えができます。こうした細かな情報をやりとりしたうえで、症状悪化時の初期対応のための指示をいただけるとステーション側も安心して対応ができます。また、コロナ禍による面会制限があるなかで、退院までに吸引手技指導できる方法はない場合には、ご自宅に帰られてから、まずは1日のうちに複数回訪問して吸引指導やリスク管理、体調管理について家族の皆さんと確認したり、ご本人の想いや家族の想いを訊ねたり、ADLや食事・排泄状況などを再確認することも可能です。そのように病院と在宅側で適切な情報共有と役割分担を明確にすることで、面会制限等があっても在宅移行することはできると思います。
一般的な退院支援の流れでいうと、病院のなかでいろいろチームができて、そこでチームアプローチをしてから訪問看護へバトンタッチすると思いますが、私は訪問看護が必要かなと思った時点で、そこで病院の看護師と訪問看護師がパートナーとなり進めていくのが良いと思います。先ほどお伝えしたように、適切なタイミングでの情報共有が大事なので、10分程度の短さでよいので電話で話しながら情報共有ができるとよいと思います。その方が結果的に話が早く進み、お客様もご家族も喜ばれます。このぐらいのスピード感を目指したいなと思っています。
パートナーシップを確立するためには、まずお客様の情報の受け渡しが大事で、お客様中心で相手本位に状況を整理することです。身体状況、治療の方向性など、医療的側面の情報を押さえて、受けた情報をどのようにチームで共有していくのか。そして、ケアの方向性をどう見立てていくのか。ここを丁寧に行っていくと状況は変わっていくと思っています。そうすることで、不必要な入院期間の延長であったり、望まない再入院なども減ってくると思います。理想とまでは言いませんが、このような姿があるべきではないかと、管理者になってから実感しています。
病院へのフィードバックをどのように実施しているか
志賀さん:
少し具体的な取り組みについてお話ししますと、看護サマリーではスタッフに病状の経過とともに、その方の生き方や生活が見えるように記載するよう指導しています。退院後2週間以内には、退院調整の担当者や主治医、病棟看護師宛てにFAXを送るようにしています。内容としては、病状の経過や生活の様子以外にも、退院前に病院から申し送られた内容の経過、訪問看護でのケアの方向性や内容、ご本人やご家族の入院生活を振り返っての思い出なども添えて記載しています。
自分たちが訪問看護で何を捉えて、どう取り組んできたのかの整理にも振り返りにもなりますし、病院側の振り返りにも使っていただけたらという思いがあります。実際に退院調整の看護師さん、病院の看護師さんから、「病院で何を準備したらいいのかがよくわかった」というお言葉や、医師からは「十分な説明をしたつもりだったけど、退院後の患者さんの声を聞いて、自分のやり方を振り返る機会になった」という声もいただきました。
訪問看護師は、病院での看護経験があるスタッフがほとんどですので、「自分が病院時代にほしかった情報は何か」とスタッフに投げかけると、イメージがしやすいようです。こうしたことに各地域で取り組み、ノウハウとして確立していくことが看看連携において大切ではないかと思います。
パネルディスカッション
中川さん:
看看連携は高度な連携技術でもあると思いますが、どのようなことを意識して教育されているのでしょうか。
志賀さん:
ステーション堺中央では入社時に指導しています。例えば「病院から情報が送られてこない」ということはたまにありますが、連携先はパートナーとして相手本位で考えてみるとどうでしょう。やはり病院の経験があるスタッフが多いので、病院が忙しいことも大変なことも重々承知のうえです。自分たちが病院で働いていたときには見えていなかった世界がこんなにあるんだ、と在宅に来てからみな実感しているので、紙面上だけではなく、直接のやりとりも含めてできたらいいなと思います。そこは臆せず相手にはきちんと配慮もしながら、形式ばらずともお客様や患者様中心にどんどん進めていってほしいですし、そのやりとりを通して、相互作用で高め合ってお互いに学んでいけるといいですね。
中川さん:
連携活動はやっているつもりになっていたけど、実は伝わっていなかったということが多いですよね。病院と在宅の看護師においてもこのスライドにある項目で認識のずれが発生しているようです。こうした認識差を理解した上で、互いに必要な情報共有ができるようになると良いですね。
次に原武さんから、病院の立場で地域に連携を働きかけていくときにどうしたらいいのか、なにか意識されていることはありますか。
原武さん:
病院は、地域のなかで様々な機能を担っていると思います。教育や連携もそうですし、うちは大学病院なのでがんの領域ではがん診療連携拠点病院という大きな役割を持っています。地域に向けて私たちが専門性を提供する立場のなかで、質を上げていくところに関しては病院が中心となって動いていくのが良いと思っています。ただ連携は双方向性のものだと思うので、地域の方々から日々忌憚のないご意見をいただきながら、病院としてもできることを意識しながら、看看連携を進めていかなければなりません。志賀さんが何度もおっしゃっているようにお互いにパートナーとして、わからない部分を補える関係性を作っていくことから、まず一歩踏み出していけたらいいなと思っています。
中川さん:
続いて成定さんから、評価に関するコツのようなものがあれば教えてください。
成定さん:
看看連携の評価は難しいですよね。連携用のフォーマットを用意したり、交流会をしたからよくなったのか、その活動自体を評価することは難しいです。まずは取り組みを発表し、皆さんから意見を問うことが重要ではないでしょうか。事例検討会や学会などを通して事例を積んで報告し、いろんな立場や職種の人から質問を受けて、気づきを得て、また取り組んでいくといいと思います。なので、まずは怖がらずに発表していきましょうと伝えたいです。
特に看護師は、病院と在宅を繋ぐ際にも間に入っていることが多いと思います。看護師は卒後教育でコミュニケーションや接遇、リーダーシップやファシリテーションなどを受けていくことが多いと思いますが、それが地域に出たときに非常に役に立っているなと私は感じます。評価には繋がらないこともありますけど、支援型のリーダーシップのように、ぜひ看護師が病院と在宅を繋ぐことをやっていってほしいです。
中川さん:
ありがとうございます。伝えていくこともすごく大事ですね。連携は美談にされがちなのですが、うまくいかないのには理由があるとされています。メリットだけではなく、デメリットもあることを野中先生の連載『連携は技術である』で解説されていますので、ぜひ皆さんにも見ていただきたいと思います。
連携活動は非効率で手間がかかることはもちろん、いろんな職種が関わることによって、実は患者様本人の持てる力をそいでしまっている、本人の気持ちや考えを発言できる時間が減らしてしまっているなどの課題もあり、そうしたことにも着目して活動を行うべきだと思います。
質疑応答
①院内でのギャップを埋めるには
Q.総合病院で地域連携している看護師です。なかなか共通のツールを作ることは難しく、スタッフ全員の意識を高めることが難しいと感じています。病院としてはできるだけ記録を簡素化したい、スタッフとしては面倒ということもあり、院内でのギャップをどう埋めていけばいいのか、なにかヒントがあれば教えていただきたいです。
成定さん:
病棟の看護師さん、忙しいなかで書くのも大変ですよね。私は簡素化する部分と簡素化してはいけない部分があると思っています。例えば、診療情報提供書に書いてあるようなことは看護情報提供書には必要ないです。医師のなかには、診療情報提供書よりも看護情報提供書のほうが役に立つという医師もいるくらい、ここだけは看護師がちゃんと伝えないといけないというところを大事にしています。また、しんどいと思いながら書くとしんどいので、この患者様にご自宅でどのような生活を送ってほしいか、どうなったらいいな、そのためにはどんなことを申し送ったら幸せに生活ができるだろう……と、思い描きながら書いていくとしんどい気持ちは軽くなります。良い仕事ができたなと思えるようになるよと言い続けています。それは、私だけではなくていろんな人がそのように進めてきてくれたので。ぜひ、頑張ってくださいね。
②地域から病院になにかサポートできるようなことはあるのか
Q.訪問看護ステーションで看護師をしています。私の地域では基幹病院から認定や専門看護師さん、特定行為を修了した看護師さんが地域に来て相談やサポートしてくださることがあり、とても助かっています。反対に、地域の訪問看護師が病院に対してなにかサポートできることがあればと思うのですが、実際の事例などはありますでしょうか。
成定さん:
私の認識としては、病院のスタッフが地域に出ていくことがまだまだ少ないので、地域や在宅のことをもっと知るべきだと思っています。今は退院支援の拡大で退院前カンファレンスに訪問看護師さんが参加してくださることも多いですからね。聞いたことのある事例でいえば、退院支援のカンファレンスで地域連携室や病棟の人たちと「この患者様はどうやったら帰れるのか、まだ帰れないんじゃないのか」という話になっていて。そのなかで訪問看護師さんがちょっと見に行かせてくださいと来てくれて、私たちが受けますよと調整が進んで帰れるようになった事例もあります。積極的にその病院のカンファレンスに入っていくことは、ひとつ大きなことではあると思います。そのように言ってくださる訪問看護師さんがいることは、病院にとっても心強いと思います。
③サマリーがなかなか活用できないため、もう少し情報をいただけるよう、失礼のないようにお願いをしたい
Q.サービス付き高齢者住宅が併設されている診療所で働いています。急性期病院から退院時にいただくサマリーが自宅での看護になかなか活用できず、困っています。先方に失礼のない程度にもう少し記載をお願いをしたいと思うことがあり、どうしたらよいか、なにか助言をいただけると助かります。
成定さん:
看看連携でお互いに対等といっても、やはり病院にはお願いがしづらいと感じることもあると思います。それでも「伝えたいことは伝えたい、患者様のために」という想いがきっと質問者さんにもあるのでしょうね。とりあえず、サマリーを書いて送ってくれたことに対して「お忙しいところありがとうございます」と感謝する。それで、3つくらい「こういうところで役に立ちました」と伝えてから、「こういう情報をいただけたらより良いケアに繋がります。今後ともよろしくお願いします」とひとつだけ伝える。こうしたことを繰り返していくことで少しずつ変わっていくのではないでしょうか。私の反省も踏まえてのお答えになりますが。
中川さん:
それぞれご質問にお答えいただき、ありがとうございます。今回はこうした機会を設けたことで、明日から病院と地域でどんな連携の活動ができるか、それぞれの地域で一番いい形で検討しながらやっていけるといいなとあらためて思いました。看看連携に関する参考資料はこちらにもありますので、ぜひ参考になさってください。
・先進事例から学ぶ訪問看護ステーションの拠点化
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2020/homonkango_st_case.pdf
・病院看護管理者のための看看連携体制の構築に向けた手引き
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000538278.pdf
成定さん、原武さん、志賀さん、そしてご参加いただいたみなさま、本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
[文]白石弓夏