認定・専門看護師から学ぶ、病院と在宅をつなぐ看看連携とは:病院と在宅の看護師が繋がる体制づくり

認定・専門看護師から学ぶ、病院と在宅をつなぐ看看連携とは:病院と在宅の看護師が繋がる体制づくり

2023年2月15日に開催された、第5回ソフィアメディ在宅療養総研セミナーでは、兵庫県看護協会西播支部で地域連携委員を務め、看看連携の一つとして看護情報提供書等の整備に携わった木村病院で看護部長として勤務されている認定看護管理者の成定啓子さん、近畿大学病院がん相談支援センターで勤務されている緩和ケア認定看護師の原武めぐみさんをお招きし、ソフィアメディからは訪問看護ステーション堺中央の管理者、老人看護専門看護師である志賀桂子さんが登壇し、病院と在宅をつなぐ看看連携についてお話しいただきました。

登壇者プロフィール

<strong>成定 啓子</strong><br><strong>医療法人佑健会 木村病院 看護部長</strong><br><strong>認定看護管理者/医療福祉連携士/POOマスター</strong>
成定 啓子
医療法人佑健会 木村病院 看護部長
認定看護管理者/医療福祉連携士/POOマスター
姫路赤十字看護専門学校卒業。放送大学教養学部卒業。 姫路赤十字病院に24年勤務。病棟、外来、在宅ケアセンター、地域医療連携室など経験。 その後10年間、姫路市医師会地域連携室の立ち上げから姫路市在宅医療、介護連携推進事業の受託などを経て現職。
<strong>原武 めぐみ</strong><br><strong>近畿大学病院 がん相談支援センター</strong><br><strong>緩和ケア認定看護師</strong>
原武 めぐみ
近畿大学病院 がん相談支援センター
緩和ケア認定看護師
近畿大学病院に就職。2009年緩和ケア認定看護師資格取得し、緩和ケアチームで組織横断的に活動。2014年以降、がん関連の病棟、緩和ケアセンター、がん相談支援センターでがん看護実践を展開。
<strong>志賀 桂子</strong><br><strong>ソフィアメディ訪問看護ステーション堺中央 管理者</strong><br><strong>老人看護専門看護師</strong>
志賀 桂子
ソフィアメディ訪問看護ステーション堺中央 管理者
老人看護専門看護師
近畿大学病院に就職。脳神経外科、腫瘍内科、泌尿器科病棟で急性期の経験をし、その他には周手術期、終末期看護、退院支援に従事。2019年には関西医科大学大学院に入学し、看護学研究科博士前課程修了。その後、ソフィアメディ訪問看護ステーション堺中央に就職。2021年に老人看護専門看護資格取得。
<strong>中川 征士</strong><br><strong>ソフィアメディ在宅療養総研 所長</strong>
中川 征士
ソフィアメディ在宅療養総研 所長
モデレーター

中川さん:
本日は看護師のみなさまが日々実践されている「看看連携」について改めて深めていきたいと思います。実は、ここ15年間で看看連携に関する文献報告はとても増えていますが、一方で現状と課題についてはこの15年間であまり大きな変化がなく、具体的な手法や有効な手段、その検証が講じられていないのではないかといった報告も認めています。そのようななか、コロナ禍で在宅医療への影響も大きく受け、看看連携の効果をしっかりと見定めたうえで展開していく必要性があるため、今回このようなテーマ設定を行いました。

セミナー前半では、看看連携の先進地域ともされる兵庫県西播地区で『看護情報提供書』の作成に携わり、長く看看連携に取り組まれている成定啓子さんから取り組みについてお話しいただきます。また、大学病院で緩和ケア認定看護師の資格を持つ原武めぐみさんに地域全体に対しての取り組みについて、ご共有いただきたいと思っています。それでは、よろしくお願いいたします。

看護師を取り巻く社会構造と働き方の変化

成定さん:
まずは私から姫路市における看看連携の取り組みについてお話しします。私は介護保険が始まった2000年から地域のなかで、居宅介護支援事業所のケアマネジャーの仕事をしたり、病院の地域連携課で退院調整看護師として働いてきました。医師会の地域医療連携室の室長、在宅医療・介護連携支援センターのセンター長などを経て、2022年から木村病院という小さな病院で、何かできることはないかと模索しながら看護部長として働いています。

私の看護のベースにあるのは24年間働いた姫路赤十字病院の名刺に書いてある「人間を救うのは人間だ」という言葉です。近年はAIやロボットが発達してきましたが、最後に残るのはやはり人と人が繋がることだろうと思っていて、今でも大事にしている言葉です。

看護情報提供書作成の経緯

成定さん:
まだ病院に連携室がなかった頃、私の先輩が「看護を継続するための窓口が必要だ」と言ったんです。なぜかというと、私がいたのは急性期病院だったので転院する患者様が多くいたのですが、転院先を紹介するときにその紹介先の病院をどのぐらい知っているだろうか、知らないのに紹介するのは無責任なんじゃないかという話になりました。「姫路市の病院のことを私たちはもっと知ったうえで患者様を送りましょう」ということがきっかけだったと思います。

そして、看護を連携するときの窓口担当者会議として順番に事務局を担当しました。その事務局当番の病院に行って会議をして、そのまま病院の見学をしていたわけです。ナースステーションやリハビリ室の場所を教えてもらったり、そこのスタッフさんはどんな想いで仕事をしているのか見せてもらったり。そのなかで、看護を繋ぐ統一した様式が必要なんじゃないかと行きつきました。この頃の看護サマリーは病棟看護師から外来看護師に送るものをそう呼んでいたので。そこと棲み分けするために、診療情報提供書のように院外に出すものとして、先駆的保健活動事業の一環として『看護情報提供書』という名称になりました。そうして、今では地域連携室が設置されるようになり、窓口にはソーシャルワーカーさんが配置されるようになりました。

成定さん「看護情報提供書」 セミナー資料より引用

看護情報提供書は2020年に改良をしました。追加した項目は、どのように医師が説明したのか、医師が説明したことを本人や家族はどう受け止めたのか、今後の目標や希望についてでした。改良にあたって、病院のスタッフは在宅生活のことはわからない部分もあるので、訪問看護師さんやケアマネジャーさんの意見を聞いて、書き方の見本も揃えるようにしました。今では病院の看護師同士のみならず、ケアマネジャーさんや訪問看護師さんにも送るようになり、早く看護情報提供書をくださいと言われるまでになりました。

※詳しくは兵庫県看護協会西播支部のサイトから。

看看連携交流会

成定さん:
この情報提供書の作成と同じく2011年頃から取り組んできたのは看看連携の交流会です。いろんな立場の看護師さんに集まっていただき、お互いのことをわかり合うために少人数に分かれて自由な対話を行うワールドカフェという手法を取り入れていました。それぞれ大変なことも経験してきたと相互理解が進み仲間意識が生まれたり、連携室は孤独だなと思っていたけどみんなこんなに頑張っているんだとモチベーションにつながったり…。これは打ち合わせで中川さんから紹介を受けたのですが、『病院管理者のための看看連携体制の構築に向けた手引き』というものがあり、ここには「地域の看看連携は地域の看護師同士が対象者の生活を支えるために、同じ目標を持って信頼し合い、対等の立場で協働すること」と書いてあります。非常に大切なことでありながら、難しいことでもあると思っています。

STEP1:連携体制構築の必要性を認識する
STEP2:連携体制構築に向けて働きかける
STEP3:実際に取り組みを実施する
STEP4:連携体制を維持・拡大するための工夫
STEP5:取り組みを評価する

また、ここに書かれているプロセスが、今振り返ってみると看護情報提供書の作成過程とも似ています。私が思うに、必要なのはリーダーシップより仲間意識で、「必要だよね」「じゃあやろうか」という気持ち。交流会もそうして、お互いが楽しい場にするように意識して続けています。

今ある看看連携を探す

成定さん:
先日、兵庫県の看護実践報告会で看看連携をテーマにしたものがありました。今ある看看連携を探し、そこからその活動を広げていくことも重要です。その報告会では、超急性期から在宅までの継続看護と地域の訪問看護師との連携として、病院の特定行為研修を修了している看護師さんが訪問看護師を兼務しているという事例がありました。その他には、感染管理やWOCの認定看護師さんが組織を超えて在宅に支援に行き、ゾーニングやガウンテクニックの指導をしたり、退院時の必要物品について一覧表を活用して訪問看護師さんに繋いでいったという事例もありました。こうした看看連携が地域単位で実践されていると思うので、まずはそうした活動を知ることが大事だと思います。一方で看看連携の課題を解決しようと意気込むと、ものすごくしんどくなったり、苦しかったりする事もあるかもしれません。患者様がこうなったらいいなというところを目指して取り組んでいると、看護師ができることが自然と出てくるように思えます。自分の立ち位置から、あと一歩どうすれば連携が深まっていくのか、情報を送りっぱなしにせずモニタリングやフィードバックしていくことが患者様にとって良いことに繋がることを意識すると自然と連携できるように思います。「連携しましょう」と取り組むと看看連携が目的になってしまうこともあります。看看連携の目的は「患者様の生活がより善くなること」を目指していく必要があります。

中川さん:
成定さん、ありがとうございました。長年取り組まれた姫路市の事例をお伺いして、どのように必要性を感じ、どのように取り組んで来られたのかがわかりました。

ここからは看看連携の課題について少し論点を定めて進行していきます。この企画を検討する中で、この後お話しいただく原武さんと志賀さんと看看連携の課題について協議しました。病院から在宅へ、もしくは在宅から病院へといった移行期に引き継ぎがされにくい看護実践として、2つの課題があげられました。

中川さん「よくある課題」セミナー資料より引用

まずはACPが引き継がれにくいことです。療養の場所によって生活スタイルや本人のご意向も変わっていくものですが、継続したACPの実践ができないのではないか、という課題認識が大きくあります。

もうひとつは、治療内容が引き継がれにくい事です。例えば病棟での治療内容を共有することで在宅でも引き継いでいける部分がありますが、現状では十分引き継いでいないのではないか、という課題認識があります。まずはこれらの課題にフォーカスをあてて、原武さんから情報提供をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。

地域とつなぐアドバンス・ケア・プランニング

原武さん:
私からは看看連携の課題というテーマでお話ししたいと思います。コロナ禍での影響や近年の退院支援の動きが活発になっていること、私がいる大学病院では部門化されているという特徴を踏まえたうえで、看看連携において抱えている課題についてまずは4つあげます。

①各部署の情報を集約した情報提供
②繰り返し入院する患者の把握の限界
③病院看護師と訪問看護師のタイミングが合わず、情報共有の時間確保が難しい
④看看連携におけるシステムの構築

退院カンファレンスなどのように確実に確保された時間以外は、病院側と地域のタイミングがなかなか合わない現状もあり、情報共有の時間確保の難しさも実感しています。また、病院の看護師は在宅での様子やイメージがわかっていないことも多いので、どんな情報をどのようにお伝えしたら一番いいのだろうと試行錯誤しているところです。看看連携をうまく行っていくためには、スタッフ教育も大きな課題の一つだと感じています。最後に、病院も地域包括ケアシステムの一機関であり、病院の問題だけではなく、地域の問題にも目を向けて問題解決に向けてシステム構築していくことが課題と考えています。

事例紹介

原武さん:
ここで看看連携において課題を感じた事例をご紹介したいと思います。対象となる患者様において、ハイリスクな手術を選択する場面がありました。術中死の可能性もある内容で、手術の可否や手術実施の時期など、さまざまな判断をしかねている状況でご相談がありました。ただ、ご家族は「手術してほしい」の一点張りでした。患者様の想いはどうなんだろうとなったときに、実はご家族から少し見当識障害、意思決定能力が脆弱なのではないかという情報もあり、ご家族が中心となって説明を聞かれている状況でもありました。ですが、治療を決めていくなかでは患者様の意向の確認が必要で、患者様のニーズはなんだろう、認知機能・意思決定能力ってどうなんだろう、価値観はどうなんだろうと病棟と患者様の意向の一貫性の共有、精神科の受診の提案をしたり、老年看護のCNSにコンサルをしたりなど、患者様の認知機能評価をしながら意向や価値観を探っていった経緯があります。

そのなかで、患者様のご家族から「本人は、もう数年も生きられればいいと実は言っていた」「ただ苦しむのはずっと嫌だ」という話もありました。実際に患者様に話を聞いてみると「やっぱり少しでも長生きしたい」「家族のために頑張らないといけない、家族に迷惑がかかるでしょう」「〇〇は家族思いなので助けてくれると思う。きっと手術をしたほうがいいと言うと思う」ともおっしゃっていました。患者さんとの対話の中では、家族というキーワードが何度も出てきて、患者さんの価値観の中に「家族」が大きいことが分かりました。

しかし、院内でいろんな連携や協働などをしながら、患者様の価値観や大切な想いを聞かせていただいたにもかかわらず、地域包括ケアシステムの基盤となる部分を、私自身は連携しきれていませんでした。ACPという観点では、地域に戻り住み慣れた地域で暮らし続けていかれるなかで、病状の変化で、また再入院される時期が必ずやってくるというときに、再度意思決定が迫られる際に必要となる患者様の価値観や考えを繋げられなかった部分もあると振り返りで課題を感じた事例です。

理想的な看看連携によるACP

原武さん:
本来の理想的な看看連携によるACPとは何だろうと考えると、それはアドバンス・ケア・プランニングの概念分析によるプロセスの繰り返しだと考えています。

原武さん「理想的なACP実践および看看連携の形」セミナー資料より引用

患者様の意向は場所や病状によっても常に変わり続けるもので、その場その場での考え方の連続そのものがACPに繋がります。同じ概念の共通理解のなかで、患者様の意向を地域に繋いでいくこと、そして入退院を繰り返す患者様の意向を繰り返して連携していくことが重要です。患者様との対話、想いを引き出すというのは看護師だからできることだと思います。

そして、地域全体として最後にどんな取り組みができるか。ひとつめはスタッフ教育です。私自身が緩和ケア認定看護師でもあるので、ACPに関する知識技術の向上、対話から拾える情報収集の仕方など、スタッフの教育が重要な課題です。あとは在宅の様子が分からず在宅療養のイメージがつかないことも多いため、顔の見える関係性の構築として、病院看護師と訪問看護師さんの定期的な連携会議、勉強会や研修の開催なども大事かなと思います。最後に看看連携のシステムの構築について。大学病院という大きな規模のなかで何かを変えることは難しいのですが、地域全体で取り組んでいくとなったときに、まずは自分の組織をどう動かしていくのかが大きな課題です。たとえば、当院では入退院時の患者情報共有のための連携シートを看護サマリで代用しています。今は病診連携ツールとしてICTを活用したネットワーク作りも進んでいるので、こうしたものをうまく使いながら、看護の現場でもうまく看看連携ができるようなシステム作りができればと思っています。今後も病院、地域、そしてまた病院、地域というように常にサイクルがまわっていく看看連携を目指していきたいです。

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[文]白石弓夏