第2回 訪問リハビリテーションと訪問看護の違いとは?

第2回 訪問リハビリテーションと訪問看護の違いとは?

はじめに

前回(第1回)は、地域包括ケアシステムの社会的背景と今後期待される訪問看護ステーションについて解説いたしました。在宅医療・介護のニーズが拡大する中で、リハビリテーションのニーズも高まっており、リハビリテーション専門職(以下、セラピスト)の活躍の場の一つとして拡大しています。

今回は、利用者の自宅を訪問してリハビリテーションを行うサービスである、「訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)」と「訪問看護ステーションからの理学療法士等による訪問(以下、訪問看護からのリハ)」について、解説していきます。

吉倉孝則(よしくらたかのり)
吉倉孝則(よしくらたかのり)
理学療法士。保健学修士。認定理学療法士(運動器・管理運営)。
星城大学リハビリテーション学部から浜松医科大学附属病院リハビリテーション部へ入職し、急性期リハビリテーションに従事。2016年日本理学療法士協会に入職し、平成30年度(2018年)診療報酬・介護報酬同時改定に向けた事業を担当。その後、厚生労働省保険局へ出向し、予防・健康づくり、データヘルス関連施策を担当。2021年に帰任し、予防健康づくり関連事業を担当。星城大学大学院健康支援学研究科修了。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科在学中。

訪問サービスの位置づけについて 

急性期医療での治療を終え、自宅に戻られた患者の方針として、入所・通所・訪問の3つのサービスの選択肢があります。

入所(入院)サービス

入院に引き続き、施設に入所して治療やケアなどのサービスを受けることができます。医療保険であれば医療療養病院、介護保険であれば介護老人保健施設、介護医療院、特別養護老人ホームなどがあります。

通所サービス

自宅等から患者・利用者が通うサービスになります。医療であれば外来での治療やリハビリテーションが該当しますし、介護保険であれば通所リハビリテーション(デイケア)、通所介護(デイサービス)などがあります。

訪問サービス

患者の自宅等を訪問してサービス提供を行うものになります。医師が訪問すれば「訪問診療」、看護師であれば「訪問看護」、セラピストであれば「訪問リハ」、介護士であれば「訪問介護」となります。

上記の入所・通所・訪問のサービスの何を利用していくかは、患者・利用者の健康状態、家族の同居状況などを加味してケアプラン等で検討されますが、通所サービスと訪問サービスについては、基本的には患者・利用者が自宅や施設で暮らしている場合に適用されます。また訪問サービスは、原則的には通院・通所ができない場合(通院が困難な利用者)に対して選択される、つまり通所サービスが優先される(通うことができるなら通う)のが原則とされています。これらについて、訪問サービスに従事する理学療法士等は理解しておく必要があります。

「訪問リハ」と「訪問看護からのリハ」の違いは何か。 

冒頭に記載の通り、利用者の自宅に訪問してリハビリテーションを行うサービスとして、「訪問リハ」と「訪問看護からのリハ」があります。リハビリテーションを受けたいと思っている患者・利用者からは同じリハビリテーションのサービスに見えるかもしれませんが、その違いについて、セラピストや看護師の皆さんはよく理解しておく必要があります。

主な違いを(表1)に示します。訪問リハは、病院・診療所などが運営しており、その施設の医師からの指示においてリハビリテーションを提供します。一方で、訪問看護からのリハは、訪問看護ステーションが運営しています。在宅医療の主治医である、かかりつけ医の訪問看護指示書に従ってリハビリテーションを実施します。

(表1)訪問リハビリテーションと訪問看護からの理学療法士等の訪問の違い

では、訪問リハと訪問看護からのリハの違いは、事業所の違い、指示する医師が違い、点数(お金)の違いがあるだけなのでしょうか。平成28年の厚生労働省の調査によると、訪問リハと訪問看護からのリハの実際の内容の違いについて、計画で設定した日常生活上の課題領域は、どちらも「歩行・移動」が最も多く、次いで「姿勢保持」、「姿勢の変換」という結果でした(図1)。また、訓練内容についても大きな違いはありませんでした(図2)。一方で、事業所として対応できない利用者像について、訪問リハで「対応できない利用者」の割合が高く、「人工呼吸器管理・気切切開の処置」、「がん末期の疼痛管理」が必要な状態が対応できない利用者として訪問看護より高い割合にありました(図3)。

(図1)訪問看護と訪問リハビリテーションの計画における設定した日常生活上の課題

(図2)訪問看護と訪問リハビリテーションの訓練内容

(図3)訪問リハビリテーション事業所と訪問看護ステーションの対応できない利用者の状態像

このように、「訪問看護からのリハ」の場合は、かかりつけ医の指示のもと、同事業所の看護師と連携することにより、より医療的ケア・管理が必要な患者・利用者に対応できているといえます。前回(第1回)、今後の在宅医療・介護は、「重症者」、「ターミナルケア」の役割を期待されていることを述べましたが、まさにそのような利用者に対してリハビリテーションを提供することによって、在宅生活を支えていくことが訪問看護からのリハには求められています。

訪問看護からのリハの動向

ここ数年の診療報酬・介護報酬改定に向けた厚生労働省の審議会での議論では、訪問看護からのリハについて本来の役割を果たしていないのではないかという議論が毎回されております。

主な指摘事項は以下の通りです。

  1. 訪問看護の一環としての理学療法等による訪問が増加している
  2. 訪問看護ステーションにもかかわらずセラピストの従事者割合が高い事業者がある
  3. 要支援者1.2への訪問の割合が高い(軽度者が中心の対応となっている)
  4. セラピストの従事者割合が高い事業所は、重症者の受け入れやターミナルケアの実施数が少ない

これらを踏まえて、近年の訪問看護からのリハについての報酬改定が行われています(表2)。例えば、2018年の診療報酬・介護報酬改定では、セラピストの訪問だけでなく、定期的に看護師も訪問し、利用者の状態の評価をすることが求められました。また2021年の介護報酬改定では、軽度者(要支援者)への訪問看護からのリハの是正のために、1日2回を超えてのリハの実施や12月を超える長期の利用について大幅な減算の見直しが行われました。

(表2)近年の訪問看護からの理学療法士等の訪問に関連する改定内容

さらに、2021年の介護報酬改定に向けての議論では、訪問看護ステーションの人員基準に看護職員の割合を6割など設けてはどうか、または看護職員による訪問割合を設けてはどうかという議論がされました。これはつまり、訪問看護ステーションでセラピストを多く雇用し、多くの「訪問看護からのリハ」のサービスを提供している事業所は運営できなくなる、または多くの看護師の雇用をする必要に迫られる恐れのあるものでした。これが報酬改定で決定されていれば、約8万人の利用者がサービスを受けることができなくなり、さらに理学療法士等セラピストは約5千人が雇用を失うことが推計されました。これらを阻止するべく、日本理学療法士協会・日本作業療法士協会・日本言語聴覚士協会が緊急署名活動を行い、19万筆の署名を国民の皆様、医療介護関係の皆様から集めて、厚生労働大臣に要望書を提出しました。そういった背景もあり、2021年度の改定では、人員配置割合の要件を設けることは見送られました。(看護体制強化加算の算定要件のみに追加された)

しかし、訪問リハ事業所も増加傾向にある中で、訪問リハと看護からのリハの役割分担、役割の明確化は求められています。図1、図2で示したように、現状ではリハビリテーションの内容で大きな違いがないことがわかっています。そのため、患者・利用者、その家族、ケアマネジャーにとってもサービスの選択がわかりにくく、適切なサービスが選択されないケースもあるでしょう。現状では、地域に訪問リハ事業所がない(足りない)という理由などもあり、医療ケアの必要度が低い利用者であっても、訪問看護からのリハが選択されているという実情があります。2021年度の報酬改定では見送られた議論も、2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定の議論では再燃する可能性もあり、注視する必要もあるでしょう。

これから訪問看護からのリハに求められること

繰り返しになりますが、訪問リハと訪問看護からのリハの役割分担、役割の明確化は求められています。地域包括ケアシステムにより在宅医療・介護のニーズが拡大する中、訪問看護には、特に、「重症者」、「ターミナルケア」の役割を期待されています。呼吸器や心疾患の患者は、寛解・増悪を繰り返し、急性期や地域包括ケア病棟で入院しては退院と入退院を繰り返すこともあります。このような患者は、回復期リハビリテーション病院を経由することなく、在宅に退院することも多いです。これはがん患者も同じような傾向はあるでしょう。内部疾患、複合疾患、重度者をかかりつけ医師と連携しながら在宅生活を支えるのが訪問看護の役割であり、訪問看護の看護師と連携しながらリハビリテーションを提供し、在宅生活を支えていくことが、訪問看護からのリハに求められるでしょう。

次回は、訪問看護ステーションで働くセラピストに求められる能力について、お伝えしていこうと思います。

参考:第142回介護給付費分科会 2017年7月5日 参考資料2