患者や家族のニーズに応じた退院支援、訪問看護師に求められる役割

患者や家族のニーズに応じた退院支援、訪問看護師に求められる役割

誰もが住み慣れたところで、その人らしく生活することができるように、最近では病院や地域全体による退院支援の取り組みが進められています。退院支援において、訪問看護師に求められる役割とはどのようなものがあるのか、入院から退院、在宅移行までを、現役訪問看護師のアドバイス付きでご紹介します。

病院における退院支援、在宅療養支援とは

近年では退院支援、退院調整、退院支援看護師など、入院した時点から退院に向けてのアセスメント評価、サービス調整をする退院支援に関するキーワードが目立つようになってきました。それは、病院から在宅療養への移行が進み、自宅や施設など患者さんやその家族のニーズに応じた環境での生活を進める国の動きがあるためです。また、この退院支援を円滑にし、在宅でその人らしく安心して生活していけるようにするためには、病院と地域の医療やケアを担う専門職が協働していく必要があります。

まず、病院における退院支援や退院調整についてご説明していきましょう。大きな病院であれば、退院支援室(※)というものがあり、病棟看護師と訪問看護師などをつなぐ退院支援(退院調整)看護師などの専門部署や専任スタッフが常駐していることが多いです。

※退院支援センター、地域連携室、入退院センターなど名称はさまざまです。

退院支援において看護師の大きな役割は、看護の専門性を持って患者さんの心身とともに生活をみる力を活用して、患者さんや家族の意思決定支援を行うことです。そして患者さんや家族、地域の持っている力を最大限に引き出しながら継続性を持って支援することが大切です。

引用:平成30年度診療報酬改定

退院支援に関する診療報酬(※)にはさまざまあり、「入退院支援加算」「地域連携診療計画加算」「退院前訪問指導料」など、病院として算定することができます。

※診療報酬は記事作成時点(2023年1月)のものです。

引用:地域医療連携に係る主な診療報酬、介護報酬(平成30年度版)

病院看護師の役割

退院支援に関して、病院で働く看護師の役割にはどのようなものがあるでしょうか。病院では、病棟看護師と外来看護師、専任の退院支援看護師などが関わることが多いです。実は退院支援において今でも勘違いされがちなことがあります。それは、退院支援は退院が決定してからはじめるものではないということです。最近では、入院時からスクリーニングとアセスメントをし、早期から退院に関わる問題点の明確化や目標の共有を進める動きがあります。

病院によってシステムや担当部署はさまざまですが、退院支援の一例をご紹介します。

引用:島根大学医学部付属病院 地域医療連携センター

まずは入院の段階でスクリーニングシートで評価をし、チェックがつけば退院支援の必要性があると判断、アセスメントシートで退院阻害要因の抽出をします。それから退院支援計画(看護計画)を作成します(この段階からケアマネや訪問看護師との連携が必要になる場合もあります)。計画書を元に院内カンファレンスや患者さんや家族との面談を行い、より詳細な支援計画を立て、リハビリや自己管理に向けた指導、医療・生活状況の課題解決を進め、医療ソーシャルワーカーや退院支援看護師などが中心となって社会資源の調整をします。なかには退院時共同指導や退院前カンファレンスなどを経て、退院前の外泊を行い、実際に退院となると、退院後の退院支援と外来でのモニタリングを継続的に行っていく流れが多いです。

これらのプロセスにおいて大事なことは、患者さんや家族の思いをしっかり聞くこと、患者さんの病状の変化や家族の状況により繰り返し話し合い、情報共有を行うことです。そのためには、病棟のスタッフだけではなく、外部の他職種とのチームアプローチを促進する目的で、退院前カンファレンスなどを通して日頃から顔の見える連携も大切です。また、病棟看護師や退院支援看護師は病院と在宅の看護の違いを認識し、在宅生活を想像しながら支援すること、そして退院支援に関わるスタッフや訪問看護師とお互いにそれらの情報を確認、共有していくことが求められます。

訪問看護における退院支援、在宅療養支援とは

入院時から退院支援を進めている病院に対して、介護保険の対象者・介護認定証をお持ちの方はケアマネジャーから、医療保険の対象者は退院支援看護師さんからご連絡をいただいて支援するケースが多いでしょう。それでも、普段の活動を通して訪問看護の役割を病院関係者へ積極的に伝えていくことも大切です。訪問看護における退院支援も、看護の専門性を持って患者さんやその家族の思いや持てる力を引き出しながら、病院から在宅まで継続性を持って支援するという視点は大きく変わりません。しかし、退院調整やさまざまな準備を進めていても、病院や患者さんや家族の状況などによっては、準備がしっかりと整った状態で訪問看護が始まることばかりではないでしょう。

退院支援に関する診療報酬(※)もいろいろあり、訪問看護ステーションで加算がとれるものには、「退院時共同指導加算」「退院支援指導加算」などがあります。

※診療報酬は記事作成時点(2023年1月)のものです。

参考:退院支援マニュアルガイドライン

訪問看護師の役割

訪問看護師としての役割は、継続看護の視点から病院での看護を引き継ぎながらも、その方の生活に合わせて再調整することを意識していきます。病院に入院している間に退院前カンファレンスや面談などを通して現在の病状や今後の治療の予定、患者さんや家族の気持ちと、退院後に継続する処置やサービス、家族の介護力、在宅チームとの連携方法などを確認しておきます。あらためて、自宅での生活で難点となることは何なのか、負担が少なく暮らすためには何が必要なのか、患者さん本人や家族の希望を聞き、一緒に考えていくことが求められます。これらの療養生活の支援を行うためには、看護師としての医学・看護知識ばかりではなく、在宅で受けられるサービスや診療報酬などの体制を理解し、他職種と連携していく必要があります。

〈M看護師からのアドバイス〉 <strong> <strong><strong><strong><strong>訪問看護師の役割で大事なこと</strong> </strong></strong> </strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉 訪問看護師の役割で大事なこと
まずは、その患者さんがこれまでどのような治療を受けてきて、どんな風な説明を受けて、どんなことを考えていらっしゃるのかを知ることがすごく重要です。なかには、病状説明を受けていてもしっかりと理解しきれていない、ご自身なりの解釈で都合よく理解してそのまま退院となる患者さんもいます。どんな病気でもどんな状態であっても、患者さんには今の状態や今後の方向性を理解したうえで意思決定していただきたいと思っています。そしてそのニーズに合わせて、私たちができることを相談しながら決めたいと思っています。そのなかで私たちができることを探していきます。そのため、退院前カンファレンスは積極的に参加するようにしています。
また、よく関わる退院支援看護師さんは、同じ看護師だからこそ気持ちがわかる部分もあります。病院で働く人たちが安心して訪問看護に任せられるようなコミュニケーションを、日頃から意識しています。例えば、電話のやりとりでも「お忙しいなかありがとうございます」「先日、このような情報をもらったことで、こういう風に役立ちました」などと小さなことでも感謝の気持ちと、患者さんの今を伝えられるように。また、働く場所は違いますが、患者さんのために一緒に働いていると、伝えられるようにしています。

退院支援に関する課題

最近では診療報酬でも退院支援に関する改定が行われるようになりましたが、退院支援に関する課題はさまざまあります。診療報酬に関していえば、病院では診療報酬に組みこまれているものが多いので、入院時から介入する仕組みがあります。しかし、訪問看護では相談機能などに対する評価が診療報酬では出ないため、時間をかけて丁寧に相談に応じることはステーションによっては負担となることもあります。特に小規模ステーションでは、スタッフ不足などにより、退院前カンファレンスや退院時訪問に参加できないことも。これまでボランティアとして行っていたことに加算がついていくと、積極的に病院と訪問看護で連携をしていこうという動きになることもあるため、今後変わっていく可能性があります。

他にも、在院日数の短縮のために十分な退院調整の時間や余裕がないまま退院となるケースや、患者さんや家族の医療的ケア・介護の負担が増えていること、高齢化や核家族化で家族の介護力が弱いこと、退院調整の必要性を判断するタイミングが遅れてしまったり、他職種との情報共有が不十分であることなどもあげられます。システム的な部分では、病院や地域で退院支援の際に使用するツールが共有されていないことや、多職種と連携する際に情報共有できるフォーマットなどがないことなども、退院支援を行うための課題とも考えられています。

参考:横浜市 退院調整をスムーズにするための情報共有ツール

〈M看護師からのアドバイス〉 <strong> <strong><strong><strong><strong><strong>現場で特に感じる課題</strong> </strong> </strong></strong> </strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉 現場で特に感じる課題
最近ではコロナ禍もあり、患者さんや家族指導などがしっかりとできないまま退院することも増えました。病院にもさまざまな事情がありますから、その点はしっかりと情報共有ができたらいいと思います。例えば、「ここまでは指導が済んでいますが、〇〇に関しては在宅でお願いしたいです」などと一言添えるだけでスムースに在宅へ移行できると思います。

訪問看護師として、在宅への退院支援で大切にすること

退院支援において、それぞれの場で働く看護師の視点の違いはあれど、大切にすることは病院でも在宅でも大きく変わりません。それは、患者さんや家族など相手を理解すること、地域で暮らしていくという長期的な視点で生活をみることを意識すること、そして病院から在宅へ切れ目のない医療、継続的な看護が大切です。また、退院して在宅へ移行したらそれで終わりではなく、大事なのは退院後に病院で働く看護師や退院支援看護師などへのその後の経過のフィードバックも忘れないことです。相互理解や信頼関係構築のみならず、退院支援の質の向上、地域連携においても重要といえるでしょう。

〈M看護師からのアドバイス〉 <strong> <strong><strong><strong><strong><strong><strong>退院支援で大切なこと</strong> </strong></strong> </strong></strong> </strong> </strong>
〈M看護師からのアドバイス〉 退院支援で大切なこと
思います。また、生活の視点とともに、思考の柔軟性も大切です。例えば、病院では内服薬の数や飲む回数が多いことがよくあります。ただ、自宅に帰ってからだと、朝昼晩と毎日薬を飲むだけでも大変です。ましてや寝る前、食前、食間などと細かな指示があるとさらに難しいものがあります。なかには、朝ごはんを食べない人も、夕食後にすぐ寝てしまうという方もおられます。。病院では忙しいなかだとは思いますが、その人の生活をしっかりと聞いて、それに沿った処方をする、病院にいるときから工夫できることを病院の看護師も訪問看護師も意識していただくといただくと在宅へ移行した患者さんは安心して療養生活を過ごせますよね。そして、それらはしっかりと記録に残していくことが大事です。

さいごに

退院支援では病棟看護師や退院支援看護師、訪問看護師はそれぞれの立場で役割を考えながら関わっていくことが重要です。訪問看護においては、患者さんやその家族の意思を中心として、病気や障害を持ちながらも、住み慣れた地域で、自宅で安心して過ごせるためにさまざまな職種が在宅チームとなり支えていくことが大切です。