【対談前編】緩和ケア×ユーモア 心の奥に秘めたニーズを引き出すユーモアの術

【対談前編】緩和ケア×ユーモア 心の奥に秘めたニーズを引き出すユーモアの術

ユーモアと笑いは、人生の満足度やその他の幸福と関係しており、疼痛やうつの軽減にも効果があると報告されています。ユーモアは単に相手を笑わせることではなく、相手の心の状態を穏やかにするとも言われており、日本におけるホスピス運動の草分けである柏木哲夫氏(大阪大学名誉教授、淀川キリスト教病院 相談役)は、緩和ケアにおけるユーモアの大切さを説いています。

今回は、緩和ケア認定看護師の資格を持つステーション千種の看護師Aさんと、がんのリハビリテーション研修や3学会合同呼吸認定療法士の資格を持つステーション小竹向原の作業療法士Kさんに、緩和ケアにおいてなぜ「ユーモア」は必要なのか、というテーマで対談していただきました。

前編では「ユーモア」の定義やユーモアとジョークの違いについてお話を伺いました。

(※記事の内容は2022年8月取材当時のものです。)

<strong>M.Aさん</strong><br><strong>看護師・看護主任/ステーション千種</strong>
M.Aさん
看護師・看護主任/ステーション千種
名古屋市出身。東京に憧れて上京し、病院で急性期〜終末期、がん看護に携わる。病院でお看取りの際に「最期は家がよかった」という患者様の声に多く触れ、在宅で充実したお看取りができる環境を広めたい、家で過ごせる人を増やしたい、という想いから在宅療養に携わることを決意し、緩和ケア認定看護師の資格を取得。往診クリニック、他ステーションの経験を得て2019年12月ステーション千種に入社。
<strong>M.Kさん</strong><br><strong>作業療法士・リハビリ主任/ステーション小竹向原</strong>
M.Kさん
作業療法士・リハビリ主任/ステーション小竹向原
埼玉県飯能市出身。急性期から慢性期病棟を経験し、精神科病棟やデイサービス業務にも従事しながら、3学会合同呼吸療法認定士の資格取得、がんのリハビリテーション研修を修了。退院後の在宅生活に焦点を当てたいと考え、2019年4月にステーション三鷹に入社。現在はステーション小竹向原にてリハビリ主任を務める。趣味は映画や音楽鑑賞、スポーツ全般、麻雀。

「ユーモア」とは何か?

──今回は「ユーモア」が日々のケアにどう活きるのかをテーマにお話しいただこうと思っています。お二人は主任という立場にあり、チーム作りの場面でもユーモアを発揮して、ステーションの雰囲気に良い影響を与えていらっしゃるのではと思い、お声がけさせていただきました。

お二人:よろしくお願いします。

──対談にあたって、「ユーモア」という言葉について調べてみました。ユーモアの語源はラテン語で「体液」を意味するhumor。中世の時代では、人間の身体の中を流れる4つの体液(血液、粘液、胆汁、黒胆汁)が人格を決めると言われ、その均等が崩れると変わり者、つまりユーモアがあると言われていたようです。今で言う「血液型がA型の人は几帳面」というニュアンスに近いですね。ユーモアという言葉が医療の領域と関係深い言葉ということに驚きました。

今回のテーマ「緩和ケアとユーモアの関係性」は、緩和ケアの第一人者と言われている柏木哲夫先生が提唱されている考えになりますが、緩和ケア認定看護師の資格を持つAさんから詳しく教えていただいてもいいですか。

Aさん:柏木先生がよくおっしゃる言葉に「人間は”にもかかわらず”笑う動物である」というものがあります。人はみな最期は同じように亡くなっていきますが、死に向かっていくにもかかわらず、笑えること、最後まで希望を持てることが大切になります。よく言われているのは「ADLが落ちてもQOLは最後まで向上し続ける」というもので、ユーモアがあれば最後まで希望を抱き続けQOLは上がる、笑顔になれる。緩和ケアとユーモアは、密接に繋がってると思います。

寝たきりとなり、意思疎通が難しい方がいらっしゃいます。よく後輩たちと話すのは「この方たちにとっての幸せは何なのか?」ということです。寝たきりだから幸せじゃない、というのは私達の勝手な決めつけであり、その方にとって幸せを感じられるのはどんなことかを探る手がかりとしてもユーモアは活かされると考えています。ユーモアがある人は、日常の何気ないことでも、見方を変えれば幸せや楽しみを見つけることができます。物事を多方面からみられる視野の広さを持っている人とも言えそうですね。

──リハビリの場合は、「〜ができるようになる」のようにポジティブなゴール設定が多いですが、寝たきりの人に対してどのような意識でKさんは介入されますか?

Kさん:がんの方の場合、症状が進行してくると、疼痛のコントロールがうまくいかず服薬の時間帯によってすごく辛い時間ができてしまいます。そこで「リハビリをしましょう」や「お身体に触れますね」と言っても、なかなか前向きになれません。

身体を良くするという概念から一度離れ、ユーモアという一つの手段を用いながら、その人との距離を近づけたり、様々な引き出しを発見していくような使い方が多いですね。ヒアリングをしながら、笑いを起こすことができれば一番いいですけど、最初はそこまで上手くいかないので、その方の苦しみを理解するためのツールとして使うという感覚ですね。

──ユーモアはただ笑いをとるだけでなく、相手への気遣いや些細な変化に気づく観察力が必要そうですね。少しずつユーモアがケアの場面でどのように活かされているのか具体的になってきたのでさらに深掘りをしていくために、今回このような問いかけを用意してみました。

Aさん:なかなか難しいですね。今週笑っていないかもしれません(笑)。

──ユーモアの定義はかなり漠然としています。普段、どのような場面でクスッとするかという問いかけからユーモアについて考えてみたいと思います。

Kさん:今朝、海外からのお客様がステーションにいらっしゃったのですが、事前に「ブラジルから来られる」と聞いていたので、あるスタッフはブラジルの挨拶をネットで調べ、私はステーションでボサノバを流してお出迎えしようと思ったのですが、実際お会いしたらベトナムの方だったんですよ(笑)。

ステーション小竹向原 Kさん(3学会合同呼吸認定療法士)

──おもてなしをしようと思って挨拶やBGMの準備までされていたのに、実際は全然違う国の方がいらっしゃったのはクスッとしますね(笑)。

Aさん:私は何でしょう…。言われてみると、普段どんなことでクスッと笑っているか意識したことなかったです。いつも気がつけば笑っているので、人生そのものがユーモアなのかもしれません(笑)。

ステーション千種 Aさん(緩和ケア認定看護師)

──やはりユーモアは言語化や再現性を持つことが難しいので、これを聞いた人が「明日からのケアで、早速ユーモアを取り入れてみよう」となるのは難しいですよね。

Aさん:たしかにシビアな場面でユーモアを言えるかは、ある程度慣れと能力が必要だと思いますね。

──その場の空気感だったり、相手との間に積み上げてきた信頼関係も重要ですよね。

Aさん:そうですね。身構えてしまってもユーモアは出せないと思うので、どれだけお互いに心を許せるか、ということも大切になりますね。

──笑わせようと思って力み過ぎると、反対に滑ってしまうということはよくあります(笑)。では、もっとユーモアの言語化をしていくために、次は少し視点を変えた問いかけを用意しました。

Kさん:某バラエティ番組みたいになってきましたね(笑)。

──例えば、慢性疼痛の方は、実際に身体部位に痛みがあるだけでなく、脳の活動変化やホルモンバランスの崩れからも痛みを感じやすくなると言われています。笑うことによってドーパミンやエンドルフィンが分泌されることで痛みを和らげることが期待できるため、ユーモアを含んだ薬があれば効果が期待できますね。

Aさん:笑うことは痛みを和らげる効果があるというのは多くの研究報告でもされていますよね。その他には、できないことができるようになったり、自分が役に立っている感、お客様ご本人が生きてる価値を見出す手助けになるということも普段よく感じます。

例えば、抑うつで気分が沈んでいる人でも「クスッ」と笑う瞬間があり、「あ、今笑った」と伝えると照れたりしますが、その瞬間って心のバリアが解けた感じがして、信頼関係を築くキッカケになったりするんですよね。

ユーモアの良し悪しを分ける境界線

──ユーモアは限られた疾患というよりも、万人に効き目がありそうですね。続いての問いかけはこちらです。

ユーモアとジョークは似たような意味で用いられることがあり、普段何気なく使い分けをしていますが、この違いを考えてみると、よりユーモアというものが具体的になりそうですね。

Kさん:自分本位の笑いというのは上手くいかないことが多いですね。相手へのヒアリングを通して、この足でどこを歩いて、この手で何を触ってきたのか、その人がどう生きてきたかの背景を知った上で、そこにちなんだユーモアを用いることが重要だと思います。

例えば、脳卒中の方で「昔ギターをやっていたけど、こんな状態だともう弾けないよね?」と悩んでいる場合でもそこで、音楽が好きだった、いろいろやってきたことがあるんだ、この手があるんだ、というところから相手に寄り添っていく必要があります。そういうことが意識できていれば、ユーモアを用いても大丈夫だと自分のなかでは思っています。

──最初の方にもKさんがおっしゃっていましたが、ユーモアには相手のことを思いやる気持ちが必要ですね。反対に、相手のことを知らずにふざけたり、それを否定するようなジョークというのは、お笑い的に言うと滑るというやつですね。

Aさん:私も自分本位のジョークは相手を不快にさせてしまうことが多いと思っています。この場面で面白いことを言うとすると不快にさせてしまいそう、という空気感のときが何となくあって、そういう空気をしっかり五感を使って感じ取る、ということをやっています。

──五感でその場の空気感を探りつつ、ユーモアを発揮するというのはとても納得がいきます。確かにリハビリの場面では、全身でお客様の様子を掴んでいくというか、耳で声を聞きながら、目では表情の微妙な変化や、肩の緊張、会話の間のようなところを感じながら、適した場面で少しユーモアを取り入れることを無意識にやっていたのですごく納得ですね。

Aさん:会話のなかでも、いつも敬語だったところが少し崩れたり、こちらとの距離が近づいたように感じる瞬間。あとは、表情や声のちょっとした変化も参考になりますね。

根底にあるニーズを引き出すためのユーモア

──ユーモアを出していいか悩む相手でも、Kさんがおっしゃっていた「その人の歴史や背景をしっかりとヒアリングする」ことで相手を不快にさせずに済みそうですよね。

Aさん:私は最初からユーモアを交えた挨拶をすることが多いですね。それに対する反応を見ながら、どういう方なのかということを判断していきます。自分が一歩踏み込まないと、お客様も一歩出てこれないと思っています。

──ソフィアメディの行動指針の中に「相手本位に行動する」というものがありますが、在宅療養の場面では相手がどう生きたいかという難しいニーズを汲み取りながら関わっていくため、機械的な問診ではその辺りを引き出していくのは難しいですよね。Aさんがおっしゃるように、一歩踏み込みながら関係性を築いていくことで、本来のニーズが出てくるということは実感します。

Aさん:緩和ケアの場面では、相手に残されている時間に限りがあるため、導入部分がとても大切な時間になります。私がオープンにならないと相手のオープンな声が聞こえないので、すぐに自己開示をしています。だから、私が担当しているお客様は私のプライベートをすべて知っています(笑)。

──最近、よく耳にする「心理的安全性」にも近いのかもしれませんね。

Aさん:そうですね。お客様が自分らしくいられるように支援するのも私たちの役目だと思っています。

[取材、文、写真]岡田紘平 [写真]一部、スタッフ撮影

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