外来での緩和ケアやがん治療技術の進歩など、さまざまな取り組みにより、治療を継続しながら在宅療養することが可能になってきています。病院だけでなく、訪問看護においても緩和ケア、がん看護は切り離して考えることはできません。そのなかで働く緩和ケアとがん性疼痛看護の認定看護師という存在。その役割やそれぞれの専門性、強みについて、ソフィアメディで働く認定看護師のお二人にお話を伺います。
(※記事の内容は2022年5月取材当時のものです。)
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看護師・管理者/ステーション青物横丁
看護師/ステーション香芝
病院と在宅との違い
──病院と在宅とのフィールドの違い、認定としての視点や介入の違いなど何か感じることはありますか。
Kさん(がん性疼痛看護):
緩和ケア病棟にいた頃は、がん化学療法や放射線、乳がんの認定看護師もいて、がんのなかでも細分化されていました。緩和ケアチームがあり、医師が薬のコントロールについて詳しく、実際にラウンドをして症状コントロールをリアルタイムに把握していました。しかし、在宅ではその場に医師がおらず、リアルタイムに薬剤調整することができないので、想定しながら対応していくことが重要になります。
例えば薬剤調整を行う際には、あらかじめ医師に連絡をし、お客様の状態や調整の相談をしています。また薬剤の変更はお客様ご本人やご家族にとっても重要なことになるので、訪問時に薬剤の主作用と副作用、薬剤以外の症状緩和方法を組み合わせつつ、日常生活リズムが安定できるかたちを考え、ご提案します。そのとき、特に意識するのは「この方法ならお客様自身でも痛みや体調の調整ができる」という安心感や自信を持てるような方法を提案することです。
視点の違いでいえば、急性期病棟では「治療を優先しつつ、本人の意向をどう活かしていくか」ということを大切にしていましたが、緩和ケア病棟では「ご本人とご家族の希望は、入院継続でないと叶えられないのか、在宅では無理なのか」「自宅退院を希望される方は、どうしたら自宅に帰れるか」と考えていました。しかし、患者様やお客様のことを考えるという視点でいえば、緩和ケア病棟と在宅で、大きな違いはないと思います。
Mさん(緩和ケア):
緩和ケア病棟では、専門的な治療を必要とする人が入院しているので、自分の資格を活かした分野の仕事ができていました。在宅になると分け隔てがなく、がんではないターミナルの方もいますし、ターミナルではない認知症や精神科の方など、少し専門と違う方と関わっていくこともあります。
また、病院ではさまざまな規則のなかでできることが限られていました。緩和ケア病棟は一般病棟に比べて自由度はありつつも、外出や外泊などの安全管理・感染管理などの観点では多くの制限があります。もちろん、在宅でも安全は第一ですが、希望に沿える手段や時間が多いのではないかと思います。医師の指示のもとではあるものの、受け持ち看護師やチームでいち早く意思決定をして実行できるなど、ある程度個別性が活かせるところがあります。
──緩和ケアはまだがんや終末期のイメージが根強いのでしょうか。
Mさん:
この誤解は簡単にはぬぐえないでしょうね。緩和ケアチームで患者様のところに行くと、「まだ死なへんで」といわれたこともあります。緩和ケアチームの名称を、”症状コントロールチーム”のように変えたこともありました。それでも患者様にはぴんと来なかったり、病棟の看護師にも「あまり頻繁に来ないでください」と言われたことも…。逆に在宅では、ネガティブなイメージはありませんが、印象が薄すぎてそこまで認識が浸透していないと感じますね。
認定看護師としてどのようなことができるか
──訪問看護における認定看護師として、どのような課題を感じ、その課題に対してどうしていきたいと思っていますか。
Kさん:
私ができることは、まず目の前のお客様に自分の知識や技術をしっかりとお届けすることです。それだけでなく、全国で働くソフィアメディのスタッフにも自分の知識や技術を伝え、一緒に考え、実践できるスタッフが増えていくと嬉しいですね。また、ソフィアメディのなかでも認定看護師やスペシャリストをうまく運用できる仕組みを作り、認定看護師へ相談するハードルを下げていきたいです。組織が大きいので難しいところもありますが、まずは認定同士が相談する姿を見せて、こういうことを相談してもいいんだと思ってもらえるように、私たちがロールモデルになりたいですね。
Mさん:
Kさんの意見に賛成です。また、ソフィアメディでもいろんな認定看護師さんがいらっしゃるので、どんどん可視化していくことで、お互いに相談しやすくなるのかなと思います。
認定看護師から認定看護師に質問
──同じ認定看護師として、お互いに聞きたいことはありますか?
Kさん:
亡くなられたお客様のご家族へのグリーフケアについてどうされていますか?また看護師や看護師以外へのグリーフワーク、グリーフケアはどのようにされていますか。
Mさん:
グリーフケアは、ご家族に紹介された瞬間から関わりがスタートします。そこから関係性を作ったり、経緯を聞いたり、なにを大切にしているのかを伺ったり…。看護師が亡くなるお客様を大切にするところをみて、家族の心は癒されます。「看護師さんがこんな風にしてくれた」「実際にやってみたらすごく気持ちよさそうでした」とか。そういう日頃の積み重ねをスタッフには大切にしてもらいたいですね。デスカンファレンスも一人ひとりしっかりできるといいのですが、なかなかすべて行うのは難しいです。それでも、ケアについて振り返ったり、気持ちを聞いたりすることでフォローしている状況です。
──日頃スタッフがそこまで意識していなかったことも、実はグリーフケアだということもありますよね。
Mさん:
意識しないでやっているのは、もったいないですよね。意識してやることで再現性があったり、チーム内でその取り組みを共有することができるので、気づけるように声かけをしたり、振り返りをしたりしています。
Kさん:
そうですよね。看護師であれば、なにかしら亡くなる人の過程やケアに携わることがあるのですが、セラピストの場合はリハビリを通して良くなっていくことが目標となることが多いので、人の死を受け入れるためのフォローに悩みます。しかし、訪問看護では関わらないわけにもいかないですよね。Mさんがいうように、意図して関わることが大事ということを、セラピストたちにも伝えて、サポートしていきたいと思います。
Mさん:
看護師の訪問にセラピストが同行でついていくと、怖がったり、傷つけてしまうんじゃないかと罪悪感を抱えたりすることがあるかもしれません。しかし、「あなたが関わることで救われることがたくさんある」と伝えて、一緒に同行するようにしています。エンゼルケアや弔問があれば一緒に行くこともあります。そのような機会を通して徐々に罪悪感や恐怖心がなくなっていけばいいなと思います。
認定の使命である「相談、実践、指導」についてKさんはどのようなことを意識されていますか。
Kさん:
指導の部分では、がんの痛みが強い方や本人の病識が薄い人など気になるお客様のカルテをみて、スタッフたちに確認や声かけをすることは日頃からやっています。例えば、痛みのコントロールに、なぜ抗けいれん薬や抗うつ薬が出ているのか、スタッフはこれが鎮痛補助薬だとパッと思い当たらないこともあります。そうしたときに、なぜこの薬が出ているのか、どう評価するのかをフィードバックしています。
Mさん:
なるほど。私がいるステーションは24時間365日対応で動いているので、毎回同じ担当者で対応するわけにはいきません。スタッフごとに判断やケアの内容にバラつきが生じないよう、ステーション内でしっかりと情報共有をしなければいけないと感じます。
Kさん:
私は、自分が行った訪問のカルテをできるだけ具体的に書き、それをスタッフに見てもらうというシンプルな方法をとっています。がん性疼痛看護の教育課程では”痛みには何らかの原因がある”ということを起点にアセスメントをしていくため、私は身体のメカニズムから入って、自分の頭のなかで考えたことを記録に残しています。スタッフも「何が起こっているのか明確になった」などと反応をくれます。
Mさん:
記録は苦手なので、頑張らなきゃと思います。勉強になりました、ありがとうございました。
──お二人とも、ありがとうございました!
[取材、文]白石弓夏 [写真]岡田紘平、スタッフ撮影
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