持続的かつ包括的な訪問看護を提供するため、質と向き合い続けるCQOの挑戦

持続的かつ包括的な訪問看護を提供するため、質と向き合い続けるCQOの挑戦

少子高齢化が進む日本では、国民の医療や介護の需要が増えることが想定されています。医療と介護が病院や施設等だけでなく在宅でも受けられる、つまり住み慣れた場所で最期まで自分らしい生活ができるようにするために地域の包括的な支援・サービス提供体制である「地域包括ケアシステム」の構築が重要となります。

一方、社会的な需要に応えるために「量」を確保するだけでなく、在宅医療というインフラの「持続性」やその「質」も重要となります。今回、お話を伺ったのは4月1日にソフィアメディに入社し、Chief Quality Officer(最高品質責任者:以下CQO)に就任された篠田耕造さん。訪問看護における品質のあり方や目指すべき姿についてお答えいただきました。

(※記事の内容は2022年4月取材当時のものです。)

<プロフィール>

■篠田耕造さん/CQO (Chief Quality Officer)
岐阜県出身。公立総合病院、専門病院、地域包括ケアを行う法人で、教育体制や業務プロセス・品質管理に携わりながら、MBA(経営管理学修士)・認定看護管理者を取得。日本看護協会教育委員・学会企画、岐阜県看護協会副会長等を歴任。教育システム、管理者研修、医療経営セミナー講師など行う。2022年4月よりソフィアメディCQOに就任。

──看護師のキャリアをお持ちになりながら、医療機関の教育や管理などにも関わられていますが、どのようなキッカケがあったんですか?

篠田さん:公立病院に勤めていた際、看護部の教育担当になったのですが、当時の教育体制は「先輩の背中を見て学ぶ」という昔ながらのものでした。後輩が何かミスをした際に「あの子はだめだ」というレッテルを貼って、先輩の一方的な評価によって後輩の出来不出来を決めてしまうような課題がありました。それでは適正で満足な教育を行うことができないと思い、教育ラダーの導入に参画しました。当時は「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」という確立された制度もなく、2000年に公表された「継続教育の基準」を参考に、ゼロベースからの取り組みでしたね。

──今では耳馴染みのあるクリニカルラダーですが、そんなに前から取り組まれていたんですね。

篠田さん:そうですね。もう一つ課題解決に向けた取り組みを行いました。病院で医師によって指示の内容や出すタイミングにばらつきがあるという課題がありました。それは、医師の経験や姿勢による影響があり、同じ疾患でもある医師はあらゆる検査をしてから治療の方針をチームと共有し行動する一方で、別の医師はあまり方針を明確にせず治療に取りかかりチームが混乱するということがありました。

医師の経験や知識・技術による差をなくし、医療の「標準化」を図るため、当時の院長から「そういう仕組みを勉強して作ってほしい」と言われ、すでに取り組みをされていた九州の病院へ見学に行ったり、研修に参加してクリニカルパスを先駆けで作らせていただきました。

当時、脳卒中や腎不全の透析導入への治療は医師の治療方針による差が大きかったのですが、いつ誰が何をやるのかという枠組みやプロセスの可視化をすることで大きなばらつきがなくなり、改定を重ねて医療の「標準化」をすることができるようになりました。

公立病院の次は、循環器専門病院で開設準備から関わらせていただきました。病院の設計などから始まり、開院後は順次体制の整備やチーム形成をする中、地域のニーズを確認しながら、何をすべきか常に考え実行し、結果の質に対し組織をあげて追及していきました。

私はリーダーという役割のスタートからでしたが、職位が上がる中で自分の組織や部下が不出来と思われてしまうのが悔しかったのがきっかけでMBAや認定看護管理者を修得し、マネジメントについても学ぶようになりました。

──そのようなキッカケがあったんですね。

篠田さん:当初は、専門的な知識・技術を身につけて認定看護師や専門看護師になるつもりでした。しかし、その道を目指す後輩がたくさんいたので、メンバーの可能性を引き出し、やりたいことを実現するための土壌をつくるのが自分の仕事なのかもしれないと、後輩たちの支援をしていくなかで考えるようになりました。より良いサービスを追求するには個ではなくチームでの成果がより重要と気づき、キャリアをマネジメントに変えていきました。

──そのような目標がありながらもMBAを取得するのは大変でしたか?

篠田さん:はじめの頃は「ファイナンス」や「コーポレートガバナンス」などわからない言葉が多く、何を話しているのかわかりませんでした。しかし、MBAを修得したおかげで企業を運営していくには幅広い知識が必要ということを知ることができましたね。医療業界中心の学びをしていたときは、専門性に偏った治療や看護のことしかわかっていなかったので。

個別性、多様性と向き合うからこその難しさ

──その後は、働く場を病院から在宅医療に移されたんですね。

篠田さん:はい。それまで急性期医療どっぷりでしたが、社会構造や医療制度が激変する中で、在宅医療に対する期待と課題が高まっていました。在宅医療は未整備な領域でもあり、訪問看護が地域のキーパーソンになっていくと認識し、次のやるべきことと決断しました。

移動後は、複数の訪問看護ステーションと看護小規模多機能型居宅介護施設を統括する責任を担いました。そのとき感じたのは、在宅領域は業界全体として各事業所の管理者によって運営や育成方針が成される構図であるため、ばらつきが大きく体系的な仕組みがないことでした。

病院に勤めていた頃は、所管する部署で管理者の職務は違うものの、組織的な横のつながりや仕組みは機能していたので根本の考え方は類似していましたね。しかし、訪問看護ステーションでは個々のステーションが独走するような形となっていました。それでは提供されるケアの質にもばらつきが生じやすく、結果として地域医療にも悪影響を及ぼしてしまいます。

──訪問看護ステーションでは、なぜそのようなことが起こるのでしょうか?

篠田さん:訪問看護は個人の様々な生活環境に入り、一人で判断・対応する場面が多いという特性です。個別の対応や応用が必要な場面があり、複雑かつ多様な対応が求められます。そのため、訪問する看護師やセラピスト個人の経験値や価値観に依存し、その場の対応やケアを進めてしまう構造にあると思います。

病院のような医療機関であれば、治療の目的に一貫性があり、定められた期間内に必要な治療を行い退院するという、求められる結果へ向けたチームでのプロセス管理ができます。しかし、訪問看護ではサービスを受ける方への個別性が重視されるため、いろいろなブラックボックスが生まれやすいですね。

このブラックボックスをそのままにしてしまうと、スタッフ間で認識のズレや思い込みが生じやすく、サービスを提供していく中でケアの内容や質の部分でばらついてしまうことにつながってしまいます。

チームの中でブラックボックスを作らないためにも、プロセスの共有や確認を日常的に行っていかなければいけません。個別性や多様性を重視するには、今まで以上にチームでの意図的なコミュニケーションを繰り返していく必要があります。

──ソフィアメディの行動指針にも「常に相手本位に行動する」という言葉がありますが、お客様の数だけ答えがあると思いますが、どのようにケアの質を標準化していくとよいのでしょうか?

篠田さん:お客様がどのように生きたいのか、何がしたいかというような個別的な事情は標準化することはできません。しかし、お客様の症状や状態に対するアセスメントは標準化することができますよね。例えば、発熱しているお客様に対するアセスメントや治療プロセスはある程度の標準化はできますし、プロセス通りに対応することで医療従事者によるケアのばらつきはないはずです。

訪問看護で提供するケアプロセスのすべてが個別性ではありません。その中でも標準化できるものを押さえておくことが、サービスの品質を保障することにつながります。そこをしっかりと行わなければ、自分都合の看護観を押し付けてしまう形になり、それは品質とは言えないということですね。

──前職ではどのように解決していったのでしょうか?

篠田さん:大まかに標準的なケアプロセスを定めチーム内で確認や共有したり、そのために看護師とセラピストの目線合わせと目標設定を行い、日々のアセスメントや記録をしっかり共有するように口酸っぱく言いました。視点の共有を繰り返していくことで、それぞれのスタッフが取り組んでいたことが実は同じ目的だったという気づきが得られていきます。個人の視点でなく、ご利用者・ご家族・社会から組織として存在を認められ、信頼され続けることが必要であることを存在価値として繰り返しチームとして共有・共感していく中で、やるべきことに向き合いやり通すことができました。基礎となる教育体制も構造から見直し、ラダーと評価制度を導入しました。

──日々の訪問業務もあるなかで、チーム内で連携をしていくのは全員が集まったり、時間を確保するのも難しいかと思いますが、そこはどのように解決していくといいのでしょうか?

篠田さん:チーム内で必要なディスカッションは時間の長さではなく、内容の深さになります。よくカンファレンスで起こりやすいのは、お互いの報告や意見だけで何の意思決定や共感もなされないというものです。

カンファレンスを行うにも所要時間や何を決める場なのかというグランドルールを設け、限られた時間でどのような目的のもと話し合うのかという思考プロセスの訓練も必要ですね。

急性期の医療現場で行われるディスカッションはまさしくそうだと思います。救急車で急患が運ばれてきて「どうしよう、何しよう」と言っていては命を救うことはできません。限られた時間内で医師や関係するリーダーが迅速に判断をして、アセスメントや治療のプランニングをチーム内で周知し実践しなければなりません。

できない理由や言い訳を探すバッドサイクルが習慣になるとチームの生産性は下がってしまいますし、何より地域医療への貢献や組織のミッション達成なんてとても無理になってしまいますね。そういう思考の癖から脱却するために、「良いディスカッションをしよう、100点を取るために」ではなく、「まず40点を取るためにはどうすればいいのか」とした方が何かを決めやすくなります。結果として20点しか取れなかったとしても、「20点も取ることができたね。次に40点取るためにはどうしようか」のように議論の上書きがされていくと、チーム全体での経験学習につながり、訪問看護ステーションは成長していきます。

持続的かつ包括的に「生きる」を看るとは

──2022年4月ソフィアメディへ入社されますが、どのようなキッカケですか?

篠田さん:ソフィアメディ本部にいる方の紹介になります。岐阜県内では、様々な環境で課題解決や組織力向上に取り組みました。しかし、日本看護協会委員として教育や制度構築に関わる中、全国の視点でみたときにまだ多くの課題があり、部分最適で終わっていることに心残りを感じていました。医療・介護業界全体の質を考えたとき、ソフィアメディのような全国規模の組織であれば自分のやるべきこと・やれることの実現に挑戦することができると考えました。また、医療・介護は社会インフラでもあり持続的な体制を実現するには、岐阜県内で留まっているのではなく、より広く継続的活動をする環境と全国をフィールドに活動していきたいと思いから、入社を決めました。

──CQOとしてどのようなことに取り組まれているのでしょうか?

篠田さん:就任してまだ3週間のため、現状を理解している段階になります。いきなり論理的な理屈ばかり並べても仕方がないので、現在訪問看護が求められている基本的な概念とソフィアメディの現状を比べて、やれていることと、どのような課題があるか整理しています。

CQOとして、ソフィアメディが提供するサービスの品質管理をしていくことが役割と責任です。品質管理の大前提は、安全な組織体制と安全なサービス提供になります。例えば、自動車を製造するには必要な部品、設計図、組み立てる人がいないといけません。ハンドルはあるけど取れてはいけないし、エンジンから火が噴いてしまっては良い品質の自動車を提供することはできません。

──CQOは例えるなら工場長のような役割で、自動車が出来上がっていく工程をチェックしながら、工場の品質管理や仕組みを整えていくようなイメージでしょうか?

篠田さん:そうですね。さらにスタッフは十分な休憩が取れているか、安全に働くことができているかという部分はサービスの安全や品質の土台になるので、その部分の責任もCQOとして担っていきたいですね。

──今後、どのようなことに取り組まれていかれるのでしょうか?

篠田さん:先ほどもお話ししたように、訪問看護では個別性や多様性に対応しなくてはならないため、チーム内でプロセスの共有をしっかり行わなければブラックボックスが生まれてしまい、品質のばらつきが起こってしまいます。ソフィアメディもそうならないよう、標準化の推進と個別性の融合を目指していきます。基本となる教育体制の拡充と、プロセスの共有と可視化をし、ソフィアメディで働く誇りとやりがい、お客様の期待・本質のニーズに応える組織づくりを皆さんと進めていきたいと考えています。

──ソフィアメディの行動指針にも「品質は人の質」とあり、品質をとても重要視していますが、どういったことがポイントになるのでしょうか?

篠田さん:やはりエリアをまとめるエリアプロデューサー(以下、AP)と管理者がキーになるのではないでしょうか。エリアごとに病院や施設、訪問看護ステーションがどれだけありどのように機能しているのか、その地域の中で自分たちに何が求められていて、何をしなければならないかを考えなければいけません。ソフィアメディという組織のやり方を基本としつつも、地域特性を考慮した取り組みやマネジメントが必要になります。各エリアと本部の間に位置するAPや、現場を繋ぐ管理者がハブとしての役割を実行できるかが、今後より重要になると思っています。

──最後に、篠田さんにとっての「生きるを看る」とはどのようなことか教えてください。

篠田さん:お客様とご家族、その地域で歩まれた生き方、今までの歴史を尊重し、継続的かつ包括的な支援をしていくということ。要は、地域包括ケアシステムの実現になります。

地域包括ケアシステムのなかで医療がインフラの役割を果たすには、ゆりかごから墓場まで疾病や障がいを抱える方だけでなく健康な方も含めて、その地域で生きていく人を看ることになります。各地域での予防医療としての関わりや、行政や介護・福祉・保育と連携し、地域の人々の暮らしや生活を支えていくことが大義になるかと。

例えば「電気」で考えたとき、点いたり消えたりを繰り返す状態ではインフラとしての役割を果たしていません。ソフィアメディはインフラとして、地域のなかで血管のようにゆきわたり、持続的かつ継続的かつ包括的に看ていく必要があります。そのためには、自分たちにいま何ができるのか、地域の視点で役割を果たすことができているのか常に意識しなければいけませんね。

「生きるを看る」ということはそれくらいの覚悟がなければ成し遂げることができないので、量的拡大・機能的拡充が求められる中、ソフィアメディの英知の結集と組織体制づくりを進め、地域全体に貢献できるリーディングカンパニーを目指し、チャレンジしていきたいと思います。

[取材・文・写真]岡田紘平

▼関連記事