【遠隔医療事業SVの仕事】テレナーシングで看護のかたちは手から声へ変わっても、寄り添い支援することができる

【遠隔医療事業SVの仕事】テレナーシングで看護のかたちは手から声へ変わっても、寄り添い支援することができる

新型コロナウイルス感染症で自宅療養を余儀なくされる感染者が増えるなか、医療機関や保健所での業務はひっ迫した状態が長く続いています。こうした事態への対処として、遠隔医療や遠隔看護(テレナーシング)も急速に広がりました。

ソフィアメディでは、保健所業務(主に自宅療養者の健康観察)を受託し、支援代行する『遠隔医療事業』の運営を2021年2月より開始しました。今回は遠隔医療事業に携わる看護師のNさんに、事業内容や実際にどのような仕事をしているのか、また、仕事のやりがいなどについて伺いました。

N.Yさん/看護師/遠隔医療事業文京区コールセンターSV(スーパーバイザー)

都立病院の混合病棟(消化器内科・外科、呼吸器内科・外科、乳腺外科、血管外科など)で5年勤務。2022年4月にソフィアメディ入社。神奈川県の遠隔医療事業でOP(オペレーター)として勤務。2022年7月より文京区コールセンターの立ち上げから参加し、現職。趣味は飼っているトカゲ2匹たちのお世話。

※記事内容は取材時(2023年2月)のものです。

テレナーシングで自宅療養をサポートする遠隔医療事業

ーーNさんがソフィアメディに入社したのはどのような理由からですか。

私が勤めていたのは急性期の病院だったので、患者様ともう少しゆっくり関わりを持ちながら看護がしたいと日頃から思っていました。これから先も看護師としてずっと生きていくつもりでしたから。そこで、病院以外に看護師が活躍できる場所として、訪問看護やクリニック、老人ホームなどに興味を持つようになりました。しかし、当時は腰を痛めていたこともあり、腰に負担をかけないような職場として訪問看護やクリニックで働くより、テレナーシング(遠隔看護)のほうが今の自分の状況にも合うと思い、ソフィアメディに入社しました。

ーー現在は文京区のコールセンターでSVとしてお仕事されていますが、そもそも新型コロナウイルス感染症の健康観察業務とはどのようなものなのでしょうか。

ソフィアメディの遠隔医療事業は新型コロナウイルス感染症に関わる保健所業務、主に自宅療養者の健康観察を受託し、支援している事業です。自宅で療養されている方に対して、電話やHER-SYS(ハーシス※)というWEB上のシステムを使って体調の確認をし、療養や生活に対する助言や精神面のサポート、時には状態に合わせて自宅療養から医療機関への入院療養に繋げるような自宅療養をサポートするのが主な業務になります。

※新型コロナウイルス感染症感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)

健康観察に関して詳しくはこちら

ーー感染症と診断された療養者さんに対してどのような流れでサポートをしていくのか、もう少し詳しく教えてください。

新型コロナウイルス感染症に罹患すると医療機関から発生届(重症化リスクが高い方が対象)が保健所に提出されます。文京区のコールセンターでは、その発生届が提出された方に対してまず疫学調査を行います。発生届にはシンプルな情報しか書かれていないので、持病はあるのか、家族構成や誰かサポートしてくれる人はいるのかなど、細かな病歴や生活歴の情報を電話で最初に聴取するのが、疫学調査です。そこで、HER-SYSのシステムを用いてご自身で体調を入力することができる方なのか、電話対応がいいのかなど含めて、翌日以降の健康観察の方針を決めていきます。WEBやお電話によるモニタリングで毎日の健康観察を行い、療養期間が終わると、終了日翌日(主に療養8日目)から外出可能となる旨をご説明し、サポートは終了。その後保健所にその日の療養終了者一覧を提出します。

(※2023年2月現在の内容であり、感染症法の類型の変更によって今後業務内容は大きく変わる可能性がございます。)

▲健康観察のフロー

ーー健康観察の中で相談を受けることもあるのでしょうか。

はい、あります。健康観察で多い相談としては、たとえば、おひとりで暮らしているご高齢の方からの「体調が悪化したときに誰にも気づいてもらえないかもしれない、どうしよう」などの不安の訴えでしょうか。基本的には、疫学調査で得た情報から看護師として医療知識を用いて、その方の重症化リスクがどの程度あるのか考えた上で、架電の回数を増やしたり、療養生活の注意点や症状悪化の徴候についてメモを取っていただいたりなどで不安の解消に努められるようにしています。

ーー健康観察事業においてSVの役割はどのようなものなのでしょうか。

健康観察で実際に療養者様に電話をするのは、OP(オペレーター)のメイン業務です。SV(スーパーバイザー)はOPからあがってきた情報を元にアセスメントし、情報共有が必要な方や療養方針に迷うような方について保健師さんに相談をして助言をいただき、療養方針を決めるのが役割です。文京区では立ち上げのときから保健師さんと何度もやりとりをさせていただいているので、ある程度の判断や権限はSVに任せていただいていています。

時には保健所の看護師として、東京都や医療機関その他各施設の職員の方と外部連携を行うこともあります。また、保健所から求められている質を担保し、知識を深めるためのグループワークの調整など事務的な業務も行っています。

「看護は声」健康観察を通して気づいた看護師としての新たなやりがいとは

ーーNさんは文京区コールセンターの立ち上げにも関わっていらっしゃるそうですが、どんなことが大変でしたか。

自治体の現状の機能の一部として介入させていただくなかで、一番大変だったのは、SVとしての経験も知識も何もないところから始まったことですね。まずは保健所の役割や仕事を理解するところから始まりました。また、神奈川県と東京都では新型コロナウイルス感染症に関して対応するシステムが異なることもあり、使い方から覚えなければいけないこともありました。特に、HER-SYSは使ったことがなかったので、毎日マニュアルとにらめっこしていました。

そうした自身の経験から、未経験かつ知識のない方でも理解しやすいマニュアル作りに徹し、その内容を他のSVや入職されたOPから評価していただけたときには嬉しかったです。もちろん、立ち上げの不安やプレッシャーは強かったですが、それと同じくらい挑戦に対する意欲や楽しみな思いもありました。

ーー健康観察のお仕事をされるなかで、やりがいはどんなところですか。

病院のときと比べると、今の仕事は患者様と対面で表情をみたり、手で触れたりできるわけではありません。そこに看護のやりがいはあるのかと考えたこともありました。ですが、電話ごしの声だけしかわからない分、その療養者様がどのように考え、思っているかなど、不思議なことに顔をみながら話をしているときよりも、何倍もその方のことについて考えるんです。もしかしたらこういうことを思っていらっしゃるのかな、この言葉の裏にはこういうことがあるかもしれないと。これまで目先の手技に集中していた頭の部分が、相手の声から機微に心情を読み取ることに集中できるようになり、自分自身もより声に気持ちがこもるようになりました。学生時代には「看護は手だ」とよく先生から言われていましたが、私はテレワークで働くようになってから「看護は声だ」と実感しています。看護のかたちは異なっても、寄り添い、支援することができる。これはとてもやりがいを感じるところです。

ーー「看護は声だ」とても素敵な言葉ですね。大切にされていること、意識していることはなんですか。

OPとSVで協力することが大事ですね。電話で一対一のやりとりになると、どうしても自分のなかの知識だけでやりとりしなくてはならない、視野が狭くなってしまいがちということは日頃から意識しています。たとえば、療養者様の表情も見えないですし、体温ひとつとっても、うまく体温計が使えていなくて正しい数値が出ていないこともあります。

的確なアセスメントができるようにSVとして気を付けていることは、OPの電話の声を聞きながら、少し困っている様子があったら、通話を保留やマイクミュートにしてもらって助言をするようにしています。OP本人は焦ってしまったり、困惑しているかもしれないので、実際に療養者様と直接やりとりはしていない第三者が冷静に助言することで、視点が変わり、視野が広がるようなことが何度もありました。電話でのテレナーシングでは、ひとりですべて対応しなければならないというイメージがあるかもしれませんが、あくまでチームとしてSVとしてそういった工夫が必要なのかなと私は思っています。

ーーNさんのなかで印象に残っているエピソードなどはありますか。

ひとつのケースではないのですが、新型コロナウイルス感染症に罹患して健康観察を通して、療養者様やご家族の問題が発覚することが何度かありました。テレナーシングでは、どうしても直接対面する訪問看護などの在宅医療よりもできることが限られた看護になると思います。それでも療養者様にとっては、新型コロナに罹患する前から元々病気や障がいがあって自宅で療養している方々もいます。その療養のサポートの線引きというのはすごく難しいと感じる部分があります。

たとえば、高齢のご夫婦の妻様が、自宅で転倒してしまい入院予定だったのですが、入院前検査で新型コロナウイルス感染症の陽性が発覚しました。その後ご自宅で療養をされていたのですが、疫学調査を通して、社会福祉サービスが入らずに夫様一人で介護をされ、心身ともに限界に達していることがわかったケースがありました。OPが新型コロナウイルス感染症には関係のないところでも、本人の気持ちの吐露を逃さず話を汲み取ってくれたおかげでわかったものです。ですが、健康観察業務として、新型コロナウイルス感染症以外のことでは関われないところも実際にはあります。ただ、少しでも良い結果に繋げられるようにOPやSV同士で話し合い、保健師さんと何度も協議をして、最終的に妻様の入院調整をすることができました。一番いい結果に運べたときは嬉しかったですね。実際に保健師さんからは「ソフィアメディとの連携により区民に貢献できた良い例が続いています。」というようなお言葉をいただき、チーム内でシェアしました。こうした対応中の苦労や歯がゆい思いも含めて、すごく印象深いです。

テレナーシングで広がるさまざまな可能性

ーー今後、遠隔医療事業含めてテレナーシングの可能性を感じられたことって何かありますか。

私が転職活動をしていた頃は、テレナーシングというものをそもそも知りませんでした。テレナーシングは対面とは違い、得られる情報の正確性が低いなどさまざまな課題もありますが、メリットも大きいと思っています。患者様としては、ご高齢で病院やクリニックに通院するのが大変という方も多いです。それで通院を自己中断してしまうということはよく聞く話です。しかし、家にいながら自分の体調のことや不安なことを相談できて、助言をもらうことができる。特に地方で医療機関や医療者が少ないところだとそのメリットはさらに大きくなるのではないでしょうか。病院やクリニックとしては、軽症で受診するほどではないような状態の患者様も多くみている現状があるので、こうしたことからも働く医療者や医療機関の負担が減るのではと思います。

看護師としては、身体に不自由があって病院のように外で勤務するのは難しいという方もいると思います。また、家で家族をみながらでも、看護師としてのスキルを活かしたいと考えられる方もいるでしょう。そうしたときにリモートワークであれば(※)家にいる時間で看護師として働くことができるので、画期的ですよね。自分がどこにいても、相手がどこにいても電話やシステムを使って看護が成立するんです。医療者不足が叫ばれているなかでも、その問題を解決する方法のひとつでもあると思います。

(※ソフィアメディでは各コールセンターによりリモートワークor出社等の勤務体制が異なります。)

ーーNさんが今後、看護師としてこうしていきたいというようなことはありますか。

遠隔医療やテレナーシングは、医療者不足や医療機関不足、超高齢社会の国にとってもいい方向に解決できるような、さまざまな可能性があることを身近に感じているところです。さまざまな課題もありますが、新型コロナウイルス感染症の罹患者だけに限局せず、もっと対象者を広くしたテレナーシングなど、私もそこに関わる者のひとりとして自身の経験を活かして、発展に努めていけたらいいなと思っています。

テレナーシングを活かし、遠隔でも「声」を通して多くの方を支援しているNさん。今後もテレナーシングの可能性は広がっていきそうです。