地域へ飛び出した救急看護認定看護師が見据える、訪問看護の可能性とは

地域へ飛び出した救急看護認定看護師が見据える、訪問看護の可能性とは


訪問看護の現場では、様々な領域の認定看護師資格をもった方が働いています。その中でも、今回インタビューしたFさんは、救急医療現場で救急看護認定看護師として多くの経験を積んでこられた救急界のスペシャリストです。

ソフィアメディに来て1年目ながら、豊富な経験と知識が評価され、ステーション緑が丘の管理者に就任されました。そんなFさんに、救急看護認定看護師の視点からこれからの訪問看護業界の可能性について深掘りしてみました。

(※記事の内容は2022年4月取材当時のものです。)

<プロフィール>

■ F.Aさん/看護師/救急看護認定看護師/ステーション緑が丘 勤務

東京都生まれ。親しい人たちの役に立ちたいと看護師を目指す。看護師養成校を卒業後、大学病院の救命救急センターや一般病棟、放射線外来で看護業務に従事。救急看護認定看護師を取得後は、東日本大震災を契機に災害医療にも参加。救急看護や集中治療、災害に関する教育活動に精力的に携わる。その後、300床程度の病院に転職し救急外来に従事。特定看護師の研修修了後、2021年4月にソフィアメディに入職、ステーション緑が丘の管理者に就任。救急看護認定看護師の資格、また特定看護師の経験を活かし業務・管理・教育にあたる。

「人の役に立ちたい」という強い思いから、看護の世界へ

ー Fさんが看護師を目指し、救急看護の道に進まれたキッカケを教えて下さい。

幼い頃に身近な人の死を経験したことから「人の役に立ちたい」と思うようになり、医療の世界に飛び込みました。救急看護に興味をもったのは、学生時代の実習がきっかけです。怪我や病気になった直後の困っている人たちの看護にやりがいを感じ、救急領域に進みたいと思うようになりました。チームを取りまとめ的確な指示を出されるリーダー看護師や、患者さんに寄り添いテキパキと働かれているスタッフの姿に憧れを抱いたのを覚えています。

養成校卒業後は、大学病院に就職。最初の2年間は放射線科の外来、その後の1年間は形成外科・リハビリテーション科・産婦人科などの患者さんが入院する一般病棟で看護業務を経験し、入職4年目の時にようやく念願の救命救急センターへの異動が叶いました。以降、救急看護の世界にどっぷりとハマることになります。

ー救命救急センターは、外来や一般病棟とはまた少し違った雰囲気の現場かと思われますが、実際に働いてみていかがでしたか? 救急看護の魅力を感じられた瞬間などもあれば教えて下さい。

これまでも、お正月など人手が足りない時期に何度か助っ人で入ることはありましたが、実際に配属され働くとなると任される内容や責任は変わってきます。新人に戻ったつもりで、一からやり直すくらいの覚悟をもって現場に向かいました。

当時は1〜10まで丁寧に教えてもらえる時代ではなかったので、先輩の背中を見ながら技術を学び、教科書を読んだり救急医に積極的に質問したりするなどして、知識を深めていきました。

救急の現場では、緊急かつ重症な患者さんが多く運ばれてくるため、絶対に失敗は許されないといった緊張感が常にあります。そのため、当時はやりがいを感じるというよりは、必死さの方が大きかったと思います。日々慌ただしく過ごしていたので、時間の経過はあっという間に感じました。

救急看護の醍醐味は、患者さん・ご家族も医療チームも全員が一つの目標に対してそれぞれ最善を尽くすという一体感ではないかと思います。それは、経験を積めば積むほど実感することのできる魅力の一つだと考えます。

救急看護のスペシャリストとしての変化と自覚

ー 救急看護認定看護師を取得しようと思われたキッカケと、その過程でどのようなことを学ばれたのか教えて下さい。

救命救急センターに配属されて4年が経過した頃、職場では教育を任されるようになりました。

しかし、どうやって相手に伝えたらいいのだろうか?、本当に目指すべきものは何だろうか?そもそも看護って何だろうか?など、次第に迷いが出てきます。そこで、一度自分の中で整理をしたいという思いから、救急看護について学べる学校に通うことにしたのでした。

学校では、認定看護師の役割として掲げられている「実践・指導・相談」についてじっくりと学びました。慣れない通学に座学や試験、さらには論文をまとめる過程においては自分自身と向き合うということにとても苦労しましたが、素晴らしい仲間や恩師とともに過ごした時間はとても貴重なものとなりました。

ー認定看護師を取得し、ご自身の中で変化したことはありますか。

「看護とは何か」という問いに対する考え方が変わりました。目の前にいる人が「求めていることと、必要なことが必ずしも一致しない」、相手のことを満足させるために必要なこと、その上で自分ができること・出来ないことをアセスメントする、プロセスそのものが専門職としての看護であると気づいたのです。看護師の立ち位置がより明確化しました。

教育やコミュニケーションにおいては「人は変えられない、だからこそ自分が変わる必要がある」という心持ちに変わり、話し合うことの大切さを学びました。また、自身の思考プロセスの癖にも気づけたことで、相手との関わり方やトラブル時の対処法も変わってきました。

学校を卒業後、救急看護や教育が楽しくなった私は、院外活動にも力をいれるようになりました。災害医療・RRS(院内迅速対応システム)・重症患者の管理やケアに関するトレーニングコースの講師を務めるなど、積極的に様々な活動に参加しました。

救急看護認定看護師が描く訪問看護の可能性

ー救急医療現場から地域に出られたキッカケは何だったのでしょうか。 

自宅で急変して運ばれてくる患者さんを看る中で、終末期ケアも含めた地域や在宅医療の実状を知りたいと思うようになりました。そこでまずは、大学病院から300床程度の二次救急病院へ転職。そこでは救急外来に所属しながら、BLS(一次救命処置)や災害医療の普及に力を入れました。そして昨年(2021年)春、在宅医療現場を経験すべくソフィアメディに入社しました。

ーソフィアメディで働きはじめて、救急看護との違いで苦労したことや大変だと感じられたことはありますか? 

救急と在宅は全く別世界のように感じる方も多いかもしれませんが、私自身はそんなに違和感はありません。科別ではなく全部の科の患者さんを担当するといった点や、どの人が重症度が高いかなどの優先順位を決めるトリアージが必要な点も似ていると思います。

また、救急外来では全身観察やフィジカルアセスメントが大切にされていますが、訪問看護でも同じです。目の前の人に何が必要で、何を求めていらして、提供していくものと自分が提供できるものは何かなど、この考え方を常に意識しながら日々の看護にあたっています。

ー訪問看護を提供する中で、印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。

重い病気があることでICUへの入退院を繰り返している若年層の利用者さんがいらっしゃいました。コロナ禍で面会制限もあることから、ある日、その方は「家に帰りたい」と訴えられました。医療的ケアが多い状態で本当に家に連れて帰っていいものか私自身とても迷いましたが、今ここで受け入れない理由はないと思い、ICUでの治療を可能な限り在宅でできるように環境と体制を整え、受け入れることにしました。

引き受けるにあたっては一人でもやろうという覚悟でいましたが、スタッフの皆さんが自然とサポートして下さり本当に有り難かったです。レベルの高い素晴らしい仲間に恵まれて、本当に幸せだなと感じています。

医療的ケアが多い状態でも自宅に帰ることができたこの経験は、これまでやってきた救急医療に新たな疑問を抱くきっかけにもなりました。救急医療が自宅でもできるようになれば、救われる患者さんは増えるのではないか。これからの社会、重症患者の在宅医療は求められてくるであろうと、自分の経験をもって改めて実感しました。

急性期領域から在宅領域へ転身を考えている方へ

ー今後、認定看護師の資格や特定看護師のスキルを活かして挑戦したいことはありますか?

訪問看護領域には医師が少ないからこそ、看護師やコメディカルで切り開ける可能性が十分にあると考えます。救急看護認定看護師としては横断的な管理が可能なので、特定看護師のスキルを持っている方や利用者さんのケアに熱い想いを持った方と共に、在宅医療の提供体制を構築していきたいです。

これまで救急看護で培った経験とスキル、また災害医療に関する知識も活かし、訪問看護業界をさらに盛り上げていけるように頑張ります。

ー最後に、急性期領域から在宅領域へ挑戦したいと考えている方に向けて、何かメッセージがありましたらお願いします。

訪問看護では、その方が「どう生きたいか」にとことん拘り看護にあたっている人が多い印象です。今の職場のスタッフを見ても、心から看護が好きなんだなと思える人が本当にたくさんいます。

看護が好きで、じっくりとお一人お一人に向き合いながらケアをしたい、と思っている人にはとても良い環境なのではないでしょうか。

病院から地域に飛び出す前は、恐怖心や抵抗感があると思います。しかし、どうしようか悩んでいるくらいならば、思い切って一歩踏み出してみるのも悪くないのではないかと私は考えます。時間がじっくり与えられ、自分ならではのケアが提供できるのは在宅看護の醍醐味です。特に急性期の看護を経験した方は、業務内容や考え方はほとんど変わらないため、スキルは十分に活かせます。

業界自体が未熟なこともあり、まだまだ可能性に満ち溢れている訪問看護業界。私は、これからの日本の在宅医療を訪問看護を通して支えていきたい。日々、やりがいをもって楽しく働いています。

[取材・文]河村由実子 [写真]中村